竹村 憲夫/Norio Takemura
Drum Corps Fun vol.5(2010年4月30日発行)に掲載
インストラクター
竹村 憲夫
「出会い」
私がマーチングバンドと出会ったのは関東学院の中学校2年生の時です。クラスの友達が机の上で広げていたコルネットを見て「かっこいい!」と感じ、その友人に連れられてマーチングバンドの部室へ。その部室には現在もアレンジャーや審査員で活躍する多くの先輩達が居られました。
マーチングバンド部入部後は、運良くドラムメジャーの役割を拝命し、簡単なフォーメーションデザインも担当させて頂くことが出来ました。
今思えば関東学院の広岡先生から直々にフォーメーションデザインについて教授頂けたことはまったく幸運だったと思います。
またさらに幸運なことに1974年には日米合同吹奏楽研究会(ハワイ)の日本代表モデルバンドとして遠征、1975年には沖縄海洋博覧会のイベントに参加、1976年には(スイス)のフェテ・ジュネーブパレードに日本代表として参加する機会を恵んで頂きました。
しかしパレード時には楽器を演奏しなければならなかったので、ドラムメジャーでパレードに出演したことは関東学院在学中は一度しかありませんでしたが、マーチングの基礎練習やフォーメーションを仕上げる際の手順など、楽しく覚えることが出来ました。
高校卒業後、憧れの日本ビューグルバンドに入隊。ここでも山崎先生や田中先生など多くの著名な先生方とお話しできる機会に恵まれました。
さらに日本マーチングバンド指導者協会(現日本マーチングバンド・バトントワーリング協会)の講習会で全国の著名なマーチングの先生から直接教えて頂く機会にも恵まれ、人との交流がとても大切なのだと実感させられました。
大学卒業後には、栃木県宇都宮市にある宇都宮女子商業高等学校(現宇都宮文星女子高等学校)の教員としてマーチングバンド指導に携わることが出来ました。これも、日本ビューグルバンドと共に参加していた行事で知り合いになった宇都宮女子商業高校の先生のご尽力があったからこそでした。その先生との出会いにより高校コンテスト全国大会に昭和57年~平成7年の間、出場することが出来ました。
「知的好奇心」
今でこそ多くの方がマーチング留学としてアメリカDCIのドラムコーのメンバーとして華々しい活躍をしておられますが、私が高校・大学生の時代は情報などほとんど無い状態でした。あるのはダビングによって劣化したDCIのビデオや、これまた音質の劣化したカセットテープからのDCI・DCAチャンピオンシップの演奏だけでした。しかし、そこから聞こえてくる、見えてくる音やフォーメーションは新鮮そのもので、私は一挙に引き込まれていきました。
この頃の私はDrum Corps漬けの日々でした。自宅でも車中でも聴いているのはDrum Corps、テレビは見ずにChampionship大会や練習のビデオ、友人と語るのはDrum Corps の話。
当時フィールド内の審査は演技終了よりも早く終わりました。その合図が「パーン・パーン」と録音にも入っているのですが、各団体毎にそのタイミングまで完璧に覚えていました。最後にはどの団体のどこで、どんな観客の声援が入るかまで覚えているという状態で、ここまで熱中できたことは幸せなことだと思っています。また熱中する仲間を持てたということも幸運でした。
1978年、丁度、日本ビューグルバンドのメンバーがDCIツアーを企画したので参加させて頂くことにしました。
そして、DCI終了後には、そのまま残留して9月に行われるDCAチャンピオンシップも見てこようと計画しました。今思えばなんと無謀な計画だったことでしょう。
コピーされたイヤーブックに載っていた各ドラムコーの住所に、でたらめ英語で手紙を送り、情報を送ってほしいと頼みました。
幸い、そのほとんどのドラムコーが返事をくださいました。中には地方大会のチケットを入れて下さったドラムコーもありました。
DCI終了後もシニアドラムコーのメンバーだった方にお世話になり、ホームステイをさせて頂きながら、練習見学をさせて頂いたり、DCAに出発するドラムコーのバスに同乗させて頂いたりとここでも当時としてはとても貴重な経験をすることが出来ました。
なんと言っても収穫は練習時間の長さ。繰り返し繰り返し何度も何度も揃うまで練習します。意識しなくても体が動き演奏や動作がきちんと合うまで練習します。これまでの自分たちの練習とはまったく違った練習方法でした。
「興味を持ってみること、そして熱くなってみること」
最近は熱中という言葉すらあまり聞かなくなった気がします。思いっきりということをあまりしたことがない人もいるかもしれません。
なにかに興味を持つ。そしてその興味を持ったことに情熱を注ぐ。その様子をオタクなどといって揶揄する風潮もあるでしょうが、なにが悪いのでしょうか。
人生において興味を持つと云うことはとても大切なことです。そして拘ることも時には大切です。
その一つがマーチングだったとしたら、とても素敵な拘りを持てたと思います。自分の贔屓のバンドが一番!と熱くなるのも良いでしょう。マーチングのサウンドやアレンジに興味を持つのも良いと思います。
とことん拘ってみて、色々な事、物、音、作品を見ながら知識や経験を積む内に、広い視野で色々なことをみる目が出来てくると思います。そこから沢山の優秀なスタッフが生み出されてくるのではと思っています。
一人の人として魅力溢れる人になるよう努力しながら、さらに新しい仲間を作り、マーチングの輪を広げて頂きたいと思っています。
「フォーメーションデザインはどんな場合でもバランス良くデザインされている必要があると思うのです」
フォーメーションデザインはどんどん進化し、複雑になり難易度も上がってきました。しかし、どんな場合でもどんな時でも常にデザインされた図形がフロアー上にバランス良く配置されている必要があると思います。ここは経過点だからという言い訳は通用しないのです。
私がマーチングの指導を行うとき、練習場前の建物の屋上から図形全体を見るようにしていました。ここで、描いたフォーメーション通りに配置され、見えているかを確認するのです。また2階席位の位置からも確認します。ここでは各図形がキチンとバランス良く見えるかを確認します。場合によってはライン間を広げたり、縮めたり、またカーブの半径を広げたりという作業を行います。
そのたびにメンバーは小変更を強いられるわけで、まったく大変な話ですがそこはデザイナーとしてのこだわりが必要だと思うのです。
トレーナーやクリーナーとしてバンド指導に携わっている方は、メンバーが苦労して描いているフォーメーションが、またデザイナーが描いた図形がしっかり観客に伝わるように調整して頂きたいと思います。
昔は、極端な時にはグランドに直接足でラインを描き、その上にメンバーを立たせてフォーメーションを作るという荒技もありました。並べてみてから全体のバランスを調整する訳ですから、修正は多くなります。ただしメンバーを動かしながらフォーメーションを作成するので、無理な動きの無い安定したフォーメーションが作成できるというメリットもありました。
現在ではデザイナーの実力も向上し、バランスや効果を考慮したフォーメーションを作成しておられますし、なによりコンピュータソフトウェアの進歩で複雑なラインやメンバーのポジションなど正確に作成出来るようになりました。
コンピュータ画面上で地点から地点へ動かすことが出来るわけですから、イメージを確認する為にも、事前にメンバーに伝える為にもとても便利になりました。
しかしコンピュータ万能とはいえ、実際にメンバーを並べ、演奏しながらフォーメーションを展開する訳ですから、実際に観客が見る視点も考慮してバランス配置をしなければならないので、前述のクリーニング(修正)が必要になります。
一端作成したフォーメーションを変更するのは勇気とパワーが必要ですが、常によりよい作品を作るという観点から取り組んで頂きたいと思います。
「指導者の先生にお願いします」
日本のマーチングの技術は近年素晴らしい発展をしていると思います。これは各団体のスタッフ・インストラクターや顧問の先生を初めとする多くの指導者の先生方の研鑽の賜物と言えるでしょう。
長いコンテストの歴史の中では、参加団体が難解なルール、特に演技内容とは関係のない部分での規定に苦しめられた時期がありました。先生の登録ミスにより演技したメンバーにはまったく責任が無いにもかかわらず失格になったり、入場ラインを勢い余って踏んでしまい減点されてしまったり。
それまでのメンバーの努力が無駄にならぬよう、現在は本編とは関係のない部分での減点・失格は協会関係の先生方のご尽力によりほとんど無くして頂きました。
しかしこれは自分勝手に大会に参加して良いという訳ではなく、他の団体の演技や進行に迷惑のかからぬように配慮するという大前提の上で成り立っていくものだと思います。
同じ目的をもって活動するマーチングバンド同士、ライバルではありますが、お互いにモラルを守り礼節を弁えて自分のバンドに誇りとプライドをもって活動して頂きたいと思います。不幸なルールが復活することがないように、そして少々オーバーですが日本の未来を背負う人材を育てる気概をもってご指導を頂きたいと思います。
「マーチングを通して人間を磨いてほしい」
マーチングは人間関係の集合体です。きちんと練習に参加する、きちんと与えられたパートの責任を果たす、他のパートと協調・協力する、みんなで準備する、みんなで片付ける、など他との関わりをしっかり持たなければ一つの作品はできあがりません。それはどんなに上手な奏者が集まっていたとしてもです。
色々な性格のメンバーが居ます。気の強い人、気の弱い人、おとなしい人、元気な人。その全てを全員がお互いに受け入れ・認めあって初めて協調できます。チームワークが中途半端なら結局中途半端な作品しか出来ないといっても良いでしょう。
そして人を感動させようと思ったら、自身の感性を磨き自分自身が色々なことに感動出来る心を持つべきでしょう。
その豊かな感性が集まって出来た音楽・マーチングは観る人を感動させることのできる唯一無二の総合芸術だと思うのです。
マーチングに色々なスタイルこそあれ、現在マーチングバンドに関わる方には、どうぞ出会いを大切にし、好奇心を持って自分自身を磨き、興味を持って熱く語り合い、協力し影響を受け合いながら、まず一人の人として魅力溢れる人になるよう努力しながら、さらに新しい仲間を作り、マーチングの輪を広げて頂きたいと思っています。