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  • マーチング・ドラムコーの世界で活躍するトップランナーを紹介

船田 周/Shu Funada

Drum Corps Fun vol.1(2006年4月27日発行)に掲載

インストラクター/ドリルデザイナー

船田 周

僕は嫌いでした。

中学時代は吹奏楽にのめり込み、マーチングとは無縁でした。高校でも吹奏楽を続けるつもりでしたが、入学した高校の吹奏楽部が偶然にもマーチングの活動もしている学校だったのです。入部前はマーチングがあると聞いただけでも入部自体を躊躇したほど、マーチングというものの印象は良くありませんでした。勧誘の時期に見た部の練習はカレッジスタイルのM.Mでした。今は何の疑問も持たない光景ですが、当時は見た瞬間に「あれだけはやらないぞ!」と思ってしまいました。しかしながら吹奏楽が好きだったという思いが強く、入部することにしたのです。マーチングの練習日は嫌々の日々でした。先輩にDCIのビデオを見せて頂き、大会を経験していくうちに、徐々にマーチングにも興味が持てるようになりました。高校生活が終わる頃には吹奏楽は頭の中から消え、マーチング大好き人間になっていたのです。
卒業後、高校の先輩や友人がBAYMAX Drum&Bugle Corpsでやっていたのでその見学に行くことがあり、その結果97年にBAYMAXに入団し、同年にはDCI出場の為渡米を経験しました。99年DCJ出場でAgeoutし、プレイヤーとしての幕を閉じました。

98年の夏、他校の指導に行っていた高校の先輩より「湘南台高校が吹奏楽の大会に出るので、ティンパニのチューニングをして欲しい」と呼ばれました。当時の湘南台高校はまだマーチングを始めたばかりでした。その時だけのつもりだったのですが、気づいた時にはマーチングのお手伝いスタッフになっていたのです。同校は翌年にはマーチングに一本化して大会に出場いたしました。01年よりビジュアルインストラクターとして本格的な指導を始めました。同年よりドリルデザイナーとして、日本航空高校や三保WINDS&DRUMS“Humming Bird”等の指導に関わらせて頂きました。02年で湘南台高校の指導を辞めることにし、プレイヤー復帰を考えました。しかしプレイヤーとしてよりも、デザイナーとしての喜びや感動の方が大きかった為インストラクターの道を進むことにしました。03年より星野高校の指導を始め、05年よりインストラクター兼デザイナーとしても関わらせて頂いております。
現在はSpirit of Stars、Yokohama West Wind、湘南ドルフィンズ、その他大会に出場しない団体や学校の指導、デザイナーとして活動しております。また、神奈川県マーチングバンド・バトントワーリング連盟のTOCC委員として大会運営など、活動の場を広げております。

音楽は楽しむもの。

指導をする上でいつも言っていることは大きく3つです。「考える!コミュニケーション!楽しく!」
マーチングのショーが出来るまでの過程にはいろいろな事を行ない、多くの時間がかかります。ミュージカルスポーツとも言われる通り、身体を鍛え、反復練習を行ない、精神的にもきついことが非常に多いと思います。演奏するだけでも大変なことなのに、動き回り、全員で合わせるのです。常に複数のことを考えなければいけません。練習においては、常に頭を使い、積極的に自分で考えなければ1つの動きも完成しません。そしてマーチングを通じて考えることは、個人が精神的に向上することになるのです。ただショーを作り上げるのではく、自分も成長させるのです。
マーチングは団体競技であり、脇役はいません。全員が主役です。個人だけの力には限界があると思っています。全員で1つのショーを作り上げるには、全員の気持ちが1つになり、1つの目標に向かって進まなければいけません。プレイヤー同士のコミュニケーションは欠かせないものなのです。マーチングはエンターテイメントである為、観客とのコミュニケーションも大事だと思っています。観客に何を伝え、感じで欲しいのか。それを皆で考え成功したとき、観客は拍手で返してくれます。
そして何よりも大前提なのは楽しむことです。プレイヤー自身が音を出す楽しみ、大人数で1つのものを作り上げる楽しみ、拍手をもらう楽しみ、さらには厳しい練習も楽しむなど、マーチングに関わっている時間全てを楽しむことが重要です。練習から楽しまないと、本番では楽しめませんし観客には伝わりません。

区対抗マーチング大会開催!

近年、日本のマーチングはテクニックの向上が見られバラエティに富んだ、複雑で難易度の高いショーが増えてきました。しかし、心に響くような音楽、感動するようなショーが減っていると感じます。そしてビジュアルを優先するあまり、演奏に支障が出ている動きや、音楽のバランスが崩れているショーもあるように思えます。もっとテーマ性を持った、観客を魅了するショーが増えるとすばらしいのではないでしょうか。
数年後のマーチングは劇的変化を遂げると思います。例えばアメリカのDCIでは、木管が導入され、バッテリーはピットに吸収されパーカッションセクションとして動かなくなるかもしれません。日本のマーチングは練習場所の確保、騒音問題等の、多くの悩みを抱えています。そのため、「Blast!」のようなステージマーチングバンドが今後増えてくるのではないでしょうか。
そしてこれらの問題が解決されるためにも、学校教育やメディアの面でもマーチングの注目度が上がり、マーチング人口増加、吹奏楽同様に認知度が上がることを期待します。マーチングの認知度を上げるために、もっと地域毎の特色のある活動があってもおもしろいのではないでしょうか。
少し極端かもしれませんが、各市や区に地域密着のマーチングバンドがあり、区対抗マーチング大会が開かれるようになると楽しいですね。さらに、観客が携帯電話で審査投票を行う時代が来るかもしれません。野球やサッカーを楽しむ子供達に並んで、マーチングが楽しまれる日が来ることは私の夢です。

評価は点数ではなく言葉で伝えて欲しい。

上位大会への選考が必要な為、点数による審査が行われています。しかし、なぜそのような結果になるのか、何を評価されたのか、何が悪いのかが明確にされていないのではないでしょうか。ジャッジシートを見ても、ジャッジテープを聞いても何を審査されたのかわからないが点数は出ているということが多々あります。また同一協会内の大会において審査基準が統一されておらず、審査員によって評価が逆転したりすることが見られます。関東大会では高評だが、全国大会で審査員が代わると不評だった。これは協会内の審査基準ではなく、審査員個人での見解が大きく反映されているからだと思われます。
審査基準の見直し・統一・審査員の育成・技術向上を行うと共に、審査結果、内容を一般公表するといった方法を取ってもいいのではないかと思います。また、DCJのように審査員との意見交換の場を持つことで、指導者だけでなく審査員自身の向上につながるのではないかと思われます。

身体を大事に楽しくマーチング!

プレイヤーへのアドバイスは、とにかく楽しくです。そして自分達のショーを好きになり、もっと演じて欲しいと思います。楽しむことで練習の幅が広がり、技術も向上していくでしょう。マーチングはいろいろなジャンルの音楽を題材にしますので、もっともっといろいろな音楽を聞いて感じて欲しいと思います。身体にリズムを取り入れ、感情豊かに、気持ちを込めてマーチングをして欲しいです。常に目標を設定し、自分を常に審査することも重要です。ただ練習メニューをこなすのではなく、1日毎、1時間毎、さらには反復練習の1回毎に上を目指すことです。
また、最近のマーチングの傾向として、ビジュアル面において激しい動きを伴うことが増えております。その為、ストレッチやトレーニング等の身体のケアにもっと気を使って欲しいと思います。シーズン中に怪我による離脱はもっとも悲しいことです。楽器以上にまずは身体を大事にして下さい。練習前、練習後のストレッチだけでなく、1日の流れとして起床後、就寝前にも欠かさず。そして布団に入ったら、絶対にミスのない完璧なショーのイメージトレーニングも忘れずに!

考える!コミュニケーション!楽しく!

指導者を目指す人に伝えたいことは、プレイヤーの気持ちを考えて一緒に楽しんで欲しいということです。そしていろいろな状況に対応できる柔軟な考えを持って欲しいですね。
練習を進めるには、目標を正しく設定し生徒の技量を見極めてメニューを作らなければいけません。目標を設定したが、このバンドにとっては高過ぎた。また、ある生徒は達成できたが数名はできなかった。ということが無いように、常にいろいろな視点で考え指導していくといいと思います。自分の信念も大事ですが、柔軟に対応できるようにしたいですね。
生徒とのコミュニケーションも大事な要素です。指導者からの一方的な指示だけでなく、生徒が何を考え何を望んでいるのか。やりたくないことばかりやらせていては、目標を達成するのに遠回りです。生徒がやりたいことを組み込み練習することで、取り組む姿勢も変わってくると思います。それはショー構成においても同じことが言えるでしょう。生徒が心から演技できるショーを構成することが重要です。
そして生徒がマーチングを楽しむためには、楽しい練習をすることです。もちろん楽しいだけではいけませんが厳しいだけでも成長しません。自分も一緒に楽しむくらいの気持ちがあってもいいのではないでしょうか。
指導者は生徒の気持ちを考え、目標に向けた道を示すだけです。実際にその道を走るのは生徒自身ですから、全力で走り抜けられるよう支えてあげられるといいですね。

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