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  • マーチング・ドラムコーの世界で活躍するトップランナーを紹介

熊谷 淳/Jun Kumagai

Drum Corps Fun vol.1(2006年4月27日発行)に掲載

アレンジャー/インストラクター

熊谷 淳

武道館に闘牛士の衣装で出場、今でもからかわれます

楽器を始めたのは中学校の吹奏楽部で、マーチングの出身は中野トゥインクルという幻の一般バンドです。その頃はまだ数少ないコースタイルのマーチングバンドで1年だけ武道館に出場しました。私はドラムメジャーでスパニッシュのショーをやったのですが、貸衣装屋で借りた闘牛士の衣装をそのまま着て出場したため、それはそれは派手で当時を知る方々には今でもからかわれます(笑)

アメリカに留学して本格的に勉強、その後DEGジャパンへ就職しました

その後、現代音楽作曲家で数々の国際コンクール優勝歴を持つ高橋裕氏に個人的に師事しました。そこから本格的に音楽への道が始まり、尚美で4年間作曲とトランペットを専攻した後サンフランシスコ音楽大学に入学、さらに作曲を勉強しました。また、ブラス指導法を勉強するためこの渡米中にBlue DevilsとSanta ClaraVanguardの練習に通いました。当時はまだ良く知らなかったウェイン・ダウニー氏を質問攻めにしたのを覚えています。アメリカでのこのドラムコー体験が契機となり、帰国した後すぐに(株)ディ・イー・ジー ジャパン(現ダイナスティジャパン株式会社)に入社しました。仕事がら日米の様々な団体に広く接することができ、指導法や楽器全般に関する広い知識と情報を得たことが自分にとって大きな糧となりました。在職中の主なアレンジ団体は星野学園マーチングバンド、佐賀学園高校などです。12年間同社に在職した後退職し、2006年からフリーのアレンジャー、ブラス指導者として活動を始めています。

指導のポイントは「デジアナ」です

ピンポイントで年に1~2回程度指導に入る場合は、その団体を普段指導されているインストラクターや顧問の先生のやり方を否定しないように心がけています。日常的にその団体を指導される方への信頼や求心力を弱めてしまっては、結果としてそれ以後のバンドのレベルを下げてしまうことになります。そういことの無いよう長い目で見たレベルアップができるように気をつけています。逆に定期的に指導に入ることができる場合は自分のやり方をゼロから注入します。練習方法ですが、初心者の多い団体は最初が肝心ですのでブレス、バズ、マウスピース、アンブシュア、舌の使い方について詳しく説明し、クセをつけずに早く上達させることを重視します。きちんと楽器演奏のできる中級以上の団体の場合は、吹奏楽系団体にはよりデジタルな感覚を、マーチング系団体にはアナログ的な感覚も養ってもらえるように工夫しています。

ここ最近日本のマーチングは飛躍的にレベルアップしていますが、課題も多いですね

ブラストの来日などによって日本でもマーチングの認知度が非常に高まりました。テレビの特集番組なども増え、以前では考えられないほどマーチングというものが広く世間に認識され始めていると思います。この10年でサウンドもビジュアルも飛躍的にレベルアップしましたのでこれからがますます楽しみですね。ただ各団体のレベルアップに比較して審査システムのレベルアップが少し追いついていないと思います。今後皆で取り組まなければならない課題ですね。

今後は、どの団体もバランス良くなっていくでしょう

一般団体はこれからも着実にショーのレベルを上げてくると思いますよ。上位団体ではキャプション間のレベル差も徐々に無くなり、どの団体もバランスが良くなってくると思います。そうなればいずれアメリカのように三強、四強が年ごとに入れ替わりトップ争いをするようになってくるかもしれません。中学・高校の方は少し大きな動きがありそうですね。今後吹奏楽連盟の大会が規定演技(パレードコンテスト)に一本化されることによって、自由演技をやりたい学校が少なからずMB協会の大会へ流れてくるでしょう。新規参入校の子供達がやる気を失わないよう、全国大会の出場枠を増やすか、大会自体を増やすことが必要ではないかと思います。吹連の大会に参加している学校でも自由演技の方が好きだという子供達は大勢いますからね。

今後の期待は、ずばり合同グランプリ戦ですね(笑)

今後期待することはマーチングのショーは仕上げるのに、膨大な時間と労力がかかりますから、それが報われるように出場の機会が1つでも増えることですね。コンテストも通るか落ちるかの一発勝負ではなく、DCIのようにワンシーズンに何度も何度も出場してクオリティを上げていくのが理想ですが、日本の環境では同じことはできませんので1回でも2回でも増やせれば良いと思います。コンテストの機会を一つ増やし、全国出場枠を増やすために親しい仲間とこんな案を考えたことがあります。『全国大会は出場枠を増やすためにマーチングとバトンを別開催にする。場所はそれぞれが観客動員数に見合った場所で開催。その後マーチングとバトンそれぞれの、高校以上の上位団体が武道館などで合同グランプリ戦を行う。』こうすることにより小中学生メンバーのご家族も、また高校や一般の上位団体を見たいというごく一般的なファンの方々もチケットを入手できる確率が高くなります。現在はチケット入手が非常に困難、つまり需要が十分すぎるほどあるわけですから、協会にとっても収益は見込めると思います。また合同グランプリ戦の開催によってバトンとマーチングの相互関係も維持できます。そして何より、多くの団体で今より1回多くショーを発表できる確率が高まります。全国大会の方を地方持ち回りにするか、三連休を利用してグランプリ戦まで一気にやってしまえば遠征費用も軽減できます。考えるだけならタダですからより良いご意見を編集部までお寄せ下さい(笑)

カラーガードの審査だけでも導入してほしいものです

現在は曲がりなりにもキャプション別審査が行われています。クライテリア(審査基準)が具体的に定められていない点が最大の問題ではありますが、もともと色々なバンド形態が混在している協会では整合性をもってそれを定めるのは現状では不可能です。協会関係者の中にも審査の改革をしようと真剣に取り組んでいる方々がいらっしゃいます。ただ、“はじめにレギュレーションありき”で大会や組織を立ち上げ、そのルールに同意する団体だけがエントリーや加盟をするジャパンカップやDCJと違い、黎明期から日本の様々な形態のマーチング団体を包括し支えてきた協会の場合は、すべての団体に整合性の取れたルールをつくるのはかなり難しいです。音楽面ではGかBbかということよりも、金管団体と木管混成団体が同じ土俵で競っていることにどうしても無理があります。ビジュアル面ではやはりカラーガードの有無が大きな問題ですね。ただ、ガードの子たちは自分たちの評価が点数としてどこに表れているのかをはっきりとつかむことができず、大会の度に寂しい思いをしているようです。多少の不具合があってもカラーガード審査だけは何とか導入してあげたいものです。また、一般団体の大小編成分けも課題の一つです。本来はやはり小編成枠というものを明確に設けるべきですが、良いショー、良い運営を行い多大な努力をしてメンバー数を増やしてきた一般大編成団体の枠を減らしてしまうというのもナンセンスです。全体の枠を増やすことを前提に行わないと問題が残るでしょう。

吹奏楽より競技性が高いですから専門の審査員がいいですね

多くの方々が制度以上に問題だと感じているのは審査員の人選の問題ではないでしょうか?もちろん今の審査員も吹奏楽の世界などにおいて非常に優秀で素晴らしい方々なのですが、“実際にマーチング指導経験のある人”に審査をしてもらいたいと多くの団体が望んでることは事実です。また、パフォーマンスレベルの審査は、なるべく現役で指導に携わっている方に見てもらいたいと思うのも自然な感覚として理解できます。DCIのパフォーマンスジャッジも、スクールバンドやWGI団体で指導をしている方が多いですし、その逆もあります。“実際にマーチングの指導ができる人”に審査をしてもらうために私が提唱しているのは、部門や編成ごとに細かく審査員を変えることです。知識と経験のある優秀なインストラクターでも大編成には指導団体が無いとか、小編成なら無いなどという場合があります。うまく配置すれば今よりは各団体が満足できる状態になるはずです。ただ編成によって審査員が変わるとなると、いわゆるオープン枠というものを排除しなければ公正さが保たれません。審査される団体側もそれなりの影響を受ける覚悟をしなければ審査改革はできないですよね。完璧を目指さず、皆で理解し合って一歩でも歩を進めたいです。

基本はやっぱりクラシックではないでしょうか?

昔は管楽器奏者というとクラシックか吹奏楽オリジナルしか聴かない人が多かったので、「ジャンルにかかわらず色々な音楽を聴いて感性を磨いて下さい!」などと言えば最高のアドバイスだったのですが、今どき誰でも様々なジャンルの音楽に触れていると思います。マーチング界ではむしろクラシックを聴いていない人が多いのではないでしょうか?すべてのダンスの基本はクラシックバレエであると言われますが、管楽器もクラシック音楽と共に育ってきたモノです。良い悪いではないのですが、マーチング、映画音楽、ミュージカル、今の多くのロックやポップスもビジュアルを伴ったエンターテイメントであって、実は純音楽とはかなり性質が違います。純粋に音楽性を磨くためにはジャズやクラシックを聴く時間を持つことをあえてお勧めします。

柔らかいサウンドが理想です。またビューグルも体験してみるといいですよ

どんなにハイノートが出ても音色が硬くては周りとブレンドしません。のど(口の中)を大きめに開くこと、舌を柔らかく保つこと、唇の厚みを保つこと、上唇のプレスを減らすことを意識して柔らかいサウンドを目指して下さい♪また一度はG管ビューグルを体験してみると良いと思います。1本で吹くとBb管の方が柔らかくて良い音がしますが、ビューグルセクション全体で鳴らした時の独特の響きには何とも言えない感動があります。ソプラノからコントラまで同じ調子、同じ倍音列で重なるがゆえの独特な響きです。私はGもBbもどちらも好きですが、ビューグルは一度経験する価値がありますよ。

異分野での経験を重ねること、これが重要です

ある意味マーチング馬鹿でなくてはいけませんが(僕もそうです)、ただのマーチング馬鹿ではダメだと思います。
視野がとても狭くなり、低いレベルにとどまりやすくなってしまいます。オーケストラ、吹奏楽、ピアノ、作曲
など異分野での経験を重ねてそれらをマーチングに生かす、というやり方の方が成功すると思います。
では、アレンジやブラスに関する事でしたら何なりとご相談下さい。楽しくマーチングをしましょう!

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