the CRAZY ANGEL COMPANY

Drum Corps Fun vol.1(2006年4月27日発行)に掲載

メンバーの多くは吹奏楽経験者。なぜマーチングバンドではなくCAなのか。
それは、「演奏だけでは表現できないものをお客さんに伝えたい」という
共通の思いを持って集まっているからです。

設立のきっかけは――
マーチングは、音楽に視覚的効果を加えたパフォーマンスであり、しばしば「総合芸術」とも呼ばれます。「CRAZY ANGEL Marching Ensemble and Drum Corps」として設立した当初は、ドラムコーのスタイルをベースにしていました。しかし、「マーチングはミュージカルだ!」という自分なりの考えや「生命感の表現」という演出方針を深めていく中で、「マーチング」というジャンルの壁にぶつかることになりました。フィールドというスケールの大きな舞台は、統一美を表すには適していますが、人間一人一人の感情や生命感を表すには不向きでした。
後に、名称を「the CRAZY ANGEL COMPANY」(以下CA)と変え、小劇場やストリートなど、従来のマーチング団体には珍しい活動場所を選ぶことになりました。それが、お客さんと空気感を共有でき、より生身の人間を感じていただくことができる「CAスタイル」だったからです。

従来のマーチングバンドとの違いはどのようなところでしょうか――
カンパニーポリシーのひとつに「スペシャリストよりジェネラリストに」というものがあります。パフォーマンスの中で特徴的なのは、全員が楽器演奏・ダンス・フラッグの全てを行うという点です。その意外性やビジュアル的な面白さが評価されることもありますが、役者の「生命感」を表すにあたって、身体による表現は必要不可欠だという考えが根底にあります。「生命感」への強いこだわりも、CAの作品づくりの特徴です。
音楽は様々な感情を表すものであり、ダンスもまた感情を表すものです。しかし同じ人間の感情を表そうとするとき、演奏者=演技者ならばより強い説得力が生まれます。まさに、「ミュージカル」と同じ――ダンサー本人が「口パク」ではなく、素晴らしい歌も同時に生み出すところに、ミュージカルの感動があるのではないでしょうか。
CAメンバーのほとんどは吹奏楽経験者で、ダンスは初心者から始めています。「演奏だけでは表現できないことをお客さんに伝えたい」という共通の思いを持って集まったメンバーたちは、身体表現の難しさと面白さを感じながら日々の稽古を行っています。メインテーマの「生命」と、「身体」とは切り離して考えることができないもの…音楽表現と身体表現、それらのエネルギーが融合したところに、CA独特のライブ感・躍動感が生まれると考えています。

定期的に舞台公演をやっているのですか――
いずれは年3~4回ぐらいのペースで上演したいと考えてはいますが、現在は2つの本公演シリーズを年2回のペースで展開しています。
ひとつは「SOUND THEATER」シリーズです。CAの活動の原点である「生命感」を追求してゆく舞台であり、2003年に旗揚公演として行われた”RE-BIRTH”を第一弾に、過去3作品を上演しています。会場には、舞台と客席との距離が近い小劇場を選んでいます。吹奏楽器を演奏する際に重要な「呼吸」は、小さい劇場だからこそ、より活きいきと感じられるからです。「SOUND THEATER」で用いられる楽曲の多くは、ケルトやアフロなど、民族的・土着的な音楽をベースにしたCAオリジナル曲です。このシリーズには民族打楽器が多く登場します。打楽器のビートはよく心臓の鼓動に例えられますが、文字通りの「生命の鼓動」を表現することに適しているのが民族打楽器です。また、弦楽器・シンセサイザー・笙など、通常のマーチングでは使われない楽器も積極的に取り入れることで、無国籍で広がりのある世界観を創っています。
もうひとつは「SOUND PERFORMANCE」シリーズで、音楽・舞踏などCAの活動の様々な側面を切り出し、舞台化しています。音楽を媒介とした、より実験的なパフォーマンスのシリーズです。第1回の”ROOTS”では、ミュージカル風のステージにタップダンスやストンプを取り入れました。そして、次回公演の”SPIRITS”。第Ⅰ部「CONFESSION」では、クラシックの楽曲群により、男女の関係を記号的・パロディ的・暗喩的に描きます。また、第Ⅱ部「GAHOU」では、CA流の「和」のテイストを、吼える音楽・躍動する肉体をもって表現していきます。

CAの舞台作品はどのようにして作られているのでしょうか――
オリジナルのステージを作りたいという考えから、まずはカンパニーメンバー自らによる楽曲制作から始まります。その中心は、第一回公演の楽曲アレンジから起用している細川であり、以降、作曲担当として演出家の考える世界を代弁しています。代弁と書きましたが、もちろん彼女独特の音楽観にインスパイアされることもあり、それらとCAの展開する無国籍感が緩やかに混ざりあって独特の世界観が生み出されていきます。現在では細川を含め数名が楽曲制作に携わっています。
出来上がった楽曲に、配役と演出に基づいたアレンジを加えます。曲のどのシーンで誰がどんな動きをするかを考え、ステージ用に再構成していくのです。例えば「ここは○○にフラッグをやらせたいんだけど、次のフレーズはこの楽器の音色を入れたいからなぁ。楽器のある上手まで移動して8カウントで持ち替え、80小節目から吹かせよう」といった具合で編曲を進めていきます。ステージに乗る全員の動きを考えてはじめて、出演者に配布する譜面が完成します。また、実際に演奏した和声のバランスを考慮して、さらに配役変えや再アレンジを行うこともあります。この過程がCAの作品づくりにおいて一番大変なところであり、演出の醍醐味でもあります。
CAで演出・構成・ステージングするときに、自分が意識して考えていることがあります。 それは何かと言いますと、造語になってしまいますが、「ダブルフォーカス」・「ギャップコントロール」・「パワームーブメント」の3点です。これらは大学時代にドラムメジャーをしていたころからの変わらない手法です。
「ダブルフォーカス」は、一曲のステージ構成の中で、二つ以上の何か「見所・見せ場」を同時に置く手法。「ギャップコントロール」は、ステージ全体を通じてという場合もありますが、ある演者が短い時間の間に全く別のことを行うように配役する手法。「パワームーブメント」は主にダンスなどのコールド(群舞)や楽器の全奏によって力強さを表現するする手法。以上3点をタイミングよく切り替えていくと、CA風のステージが出来上がっていきます。
最後は方法論になってしまいましたが、多少の無理も成し遂げてくれるだろうという信頼関係と基礎力とがあって、上記の方法が成立するのだと思っています。その総決算が本公演となるのです。

演劇的な練習も取り入れているとのことですが――
「エチュード」は、演劇団体が主に行う練習で、「感情表現」「コミュニケーション」「自己解放」などの能力を高めるための訓練です。CAでは、様々な音楽を聴いてそのイメージを身体で表現する練習や、言葉を使わず目線や表情だけで意思疎通を図る練習など、一般の音楽団体ではあまり見られない練習を継続的に行っています。
舞台に表現者として上がり、自分の核にある「生命感」を観客に見せるためには、自己を解放して感情をさらけ出していくことが不可欠です。CAのパフォーマンスは楽器演奏をメインに置いていますが、それは音を出す「道具」を持っていることでもあります。舞台上ではこの楽器でさえ、感情表現を隠すヴェールのようになることがあります。ヴェールで覆われた表現に、本当の魅力はありません。逆に、役者の核がヴェールを脱いでありのままに近い程、お客さんもありのままに表現を観て下さり、表現を楽しんで下さいます。まずは生身ひとつ。そこからどれだけの創造性を引き出せるかがポイントになってくるという考えから、演劇的な練習を行っているのです。
エネルギーは多く集まれば集まる程、大きな明かりをつけることができます。それと同様に、メンバーひとりひとりの「生命感」というエネルギーを引き出して集めることで、より大きな影響をお客さんに与えることができます。
その力を身につけた上で音楽と向き合えれば、新たな表現の路が開けてくるに違いないと考えています。

ストリートでの演奏というのはどのようなものですか――
CAオリジナルのパレードで「Ristorante ANGELO」と呼んでいるパフォーマンスです。もともとは「ただのパレードじゃ、お客さんとのふれ合いが少ないな」ということから発案しました。イタリアンレストランの店員に扮したメンバーが、お客様からメニューのオーダーをいただいて「音楽」という料理をお届けする、という一風変わったパレードスタイルです。
お客さんとの絡みあり、ダンスあり、バルーンアートまで飛び出す「Ristorante ANGELO」では、「隊列を組んで歩き、決まった曲順で演奏する」という従来のパレードのイメージを変えることに挑戦しました。本公演とは全くカラーの違うパフォーマンスで、本当に「SOUND THEATER」と同じ出演者がやってるの!?と驚く人がいるほどですが、これもカンパニーポリシーのひとつを体現した結果です。そのカンパニーポリシーとは「ドラマがないならドラマをつくれ!」というもの。街頭でたまたま通りかかったお客様をいかに惹きつけ、いかにコミュニケーションを取るかがテーマです。何度か出演した吹奏楽連盟主催のパレードでは、周りの出演団体との出会いも「ドラマ」として楽しみ、出発前の待機場所で中高生バンドと即興的にコラボレーションしたこともありました。引率の先生には、ご迷惑をおかけしたかもしれませんが…。 現在では商店街やショッピングモール、アートイベントなど、ほぼ月に1度のペースでこのパフォーマンスを行っています。

一般参加できる体験練習も行っているそうですね――
劇団でよく行われている「ワークショップ」をCA流にアレンジしたものを年数回行っています。参加者の方々には、CAで行われる演奏・ダンス・フラッグの他、演劇的エチュードも体験していただきます。やる内容が盛りだくさんで、1日では時間が短いため、一昨年からは2日間にわたって全てのジャンルを体験できる「ワークキャンプ」も始めました。2日目の最後にはメンバーと参加者の全員で、ミニステージを発表しています。
なかなか説明しづらい活動内容をみなさんに理解していただくためにスタートした企画ですが、団体の指導者の方が参考にするために来られるケースが増えてきました。参加者同士の交流の場にもなっていて、遠方からわざわざお越しいただく方がいることも嬉しく思います。これからも、「情報発信源」としての役割を果たせるように内容を充実させ、CAのパフォーマンスのエッセンスや作品づくりの過程を知っていただきたいと考えています。
また、お客さんと直に触れ合えるワークショップは、メンバーにとっても貴重な機会となっています。自分たちがお客さんに伝えたいものは何か?自己満足に陥ってはいないか?改めて自らの姿勢を見直すことで、より良い舞台を作っていきたいという思いもあります。

最後に一言お願いします―
いずれは日本から世界へ発信するような元気な集団になりたい!ということで、こんなCAを、これからも応援よろしくお願いします!まずは、5月の公演。そしてワークショップなどで、皆様とお会いできることを楽しみにしております!

代表・演出家 斎藤美明

中学3年の秋に吹奏楽と出会う。
高校ではブラスバンド部に所属。トランペットを始める。
在籍中に、千葉県吹奏楽コンクールに出場。金賞を受賞し、県代表として関東大会に出場。大学へ進学後、吹奏楽団に入部。そこでマーチングと出会い、その魅力の虜となる。在学3年次はマーチングの新人指導にあたり、在学4年次にマーチングのステージディレクターとして、ステージの企画、構成、アレンジ、練習指導を行う。
トランペットを市川和彦氏(新日本フィルハーモニーオーケストラ)に指導を受ける。
平成10年「マーチングはミュージカルだ!」という理想のもと、都内ミュージカル学校に入学。バレエ、ジャズダンス、タップダンス、パントマイム、声楽などを学ぶ。
また、舞台概論、劇団運営を米村あきら氏(武蔵美術大学教授、元劇団四季研究所顧問)に学ぶ。
平成11年に学内にてストレートプレイの劇団を創設し、役者兼制作統括兼代表として劇団を運営する。
平成13年、増山義雄氏(フリーランスの舞台監督。海外招聘作品や電撃ネットワークの舞台監督を務める)との出会いから、舞台監督をフリーランスとして活動を始める。
同年、渋谷オーチャードホールを皮切りとするスペインのフラメンコミュージカルの日本側ツアースタッフ(舞台監督補)としてデビューする。以降、演劇やミュージカル、式典、コンサート、大学の学園祭、、バレエ教室やエレクトーン教室の発表会など、多岐にわたり舞台監督をつとめる。
また同年、演技術をレオニード・アニシモフ氏(ロシア功労芸術家、国際スタニスラフスキー・アカデミー創立者)に学ぶ。
同年秋、the CRAZY ANGEL Marching Ensemble & DrumCorps(現the CRAZY ANGEL COMPANY)を前副代表・岡下とともに旗揚げし、同集団の主宰・代表・演出を務める。
マーチングをベースメントに、ブラス・ダンス・リズムの融合を試みる「音のパフォーマンス」を展開する。
平成13年夏、昌平音楽祭に作品を出品・演出を皮切りに、バトンフェスティバルのエキジビションや依頼演奏(クリスマス会、パレード、地域イベント)、新宿街頭でのストリートパフォーマンスなど行い、平成15年からは本公演「SOUND THEATER」シリーズを開始。以降、定期的に本公演を開催。
平成16年には国際舞台芸術祭に出品。平成17年からの本公演はホールとの提携公演となる。
現在では小学校の金管バンドの講師も務め、アサヒアートスクエアホールの実行委員に携わる。
「生命力とコミュニケーション力」を機軸に演出を展開する。

1975 年東京都出身。

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