【table×talk】夢に向かって DCI参加者による座談会

Drum Corps Fun vol.2(2007年4月11日発行)に掲載

清藤英明(2006年キャデッツ バリトン)、松本健太郎(2001年マディソンスカウツ バリトン)、杉山大輔(2004.5.6年マディソンスカウツ スネアドラム)、古館秀美(2006マンダリンズ トランペット)、香野彩(2006年キャロライナクラウン カラーガード)、佐藤良子(2006年ファントムレジメント ユーフォニアム)

DCIはDVDなどでご存知の方も多いでしょう。しかし、オーディションへの申し込みや、実際に渡米してからのこと、ツアーのことなどはあまり知られていません。そこで今回はDCIを経験した6名の方に集まっていただいて、思い出や今後留学する方々へアドバイスなどを座談会形式で語っていただきました。

1 オーディションへの申し込みやオーディション内容

佐藤 私はファントムのHPにいってオーディション申し込みを、辞書を引きながらやりました。現在では全てインターネットで申し込めますが、私の時は申し込み用紙をプリントアウトして手紙を送らなければならなかったんです。お金はクレジットカードがまだ作れないので、郵便局の小為替でやりました。オーディションはいきなり2006年のショー曲を配られて、それをみんなで吹く合奏が主です。そこから一人ずつ呼ばれて別室でオーディションがあって・・という感じでした。

古舘 マンダリンズはアメリカに住んでいる元マンダリンズの友人がスタッフを紹介してくれて、そのつてで入りました。

松本 私の時はまだインターネットが大学などの限られたところでしか見れなかったので大変でした。大学からマディソンスカウツにメールを送って、次の日にオフィスから返信があればラッキーみたいな感じで(笑)2000年にも行きたかったんですが、結局行けなくて、2001年は自分でオフィスに電話をして受けました。

清藤 私なんかはホントいい加減で(笑)最初は友達と一緒にキャンプだけ行ったんですね。その友達がほとんど英語でしゃべってくれたので、ついて行った感じです。あとは気合と根性だけで周りのアメリカ人をなぎ倒しました(笑)ちなみにキャデッツはMMのオーディションはありません。それは入ってからというわけです。

香野 私の場合もインターネットでした。メールで「キャンプに参加したい」旨を伝えて、そこから返事が返ってくる感じでした。あとは私の前にキャンプに参加していた人がいたので、その人にいろいろ聞いていました。ガードのオーディションは、フラッグとボディワークとダンス、これは全員でライフルとセーバーはまた別でした。オーディションと言うよりもキャンプでいろいろなことを教えてもらいながらって感じでした。

杉山 私は本当に何も分からなかったので(笑)そこにいる松本さんに全部やってもらいました。私はスネアで受けるつもりが間違ってテナー(クォード)になっていたみたいで、その辺の行き違いはありましたけどね。オーディションの内容はHPに載っている課題曲と、その場で適当に叩かされたりしました。

基本的に、一度オーディションに合格したメンバーは次の年にはオーディションはなく、そのままエイジアウトまでいることができるようです。また年度によってはパートによって募集しないパートもあるようなので、チェックが必要でしょう。

2 本格始動について

実際にオーディションに受かってから本格的に始動するのはいつごろなのでしょうか?

杉山 どこのコーでもアメリカの夏休みに合わせた6月から始まるようです。
マディソンスカウツでは、ドラムとガードはブラスよりも1週間早くムーヴインしていました。

佐藤 5月のMove inからでしょうか。ツアー開始前、開始後のスタイルの詳細・・・ツアー前は1ヶ月間ショーの基礎を仕上げるためのトレーニング合宿をします、朝9時から夜10時、11時くらいまで。ブレイクは昼、夜の食事のみです。

3 ツアーの思い出

3ヶ月間のツアーの間にいろいろなところのショーに参加するDCIですが、このツアーはどのようなものなのか、思い出を語ってもらいました。

松本 やっぱりバスですね。移動時間がかなり長いのでここでのことは思い出ですね。時にはカナダのモントリオールまで14時間かけて行ったこともあります。移動が長かった分、楽しかったですけどね。

清藤 バスの中での自分の空間を作るのが大事ですね。大体バスの自分の場所っていうのは決まっているんで、そこでいろいろやりました。

佐藤 飾りますよね(笑)ファントムのバスは観光バスみたいでキレイでした。

清藤 ぐちゃぐちゃでした(笑)まずバス自体が古くて、高速道路でエンストするのがしょっちゅうでした。3台中必ず1台はエンストする感じでしたから(笑)キャデッツのバスは伝統があるようで、見たらすぐに「あ、キャデッツだ」って分かるんですよ。

杉山 ツアー自体の話ですが、DCIの予選では同日に2~3の大会が開かれており、そのコーのツアー状況に合った場所での大会に参加しています。マディソンスカウツではカリフォルニアなどの西海岸での大会に参加することはありませんでした。ツアー後半になると毎週末、大きな大会が開かれその結果が出場権や出場順に反映されてくるんです。また大会が始まるのはほとんど夕方以降のため、予定ぎりぎりまではいつも通り練習をします。マディソンスカウツではテキサスに行ったとき、日中気温が高すぎるため、朝早くから練習を始めて午前中で切り上げ長めの休憩をとりショーに臨むということもありました。

佐藤 ツアー中は朝から昼過ぎまで練習して、その後2時間ブレイクがあってその間に体育館の中にあるシャワールームを使ってシャワーを浴びます。ショーのあとにシャワーを浴びられないのが辛いです。また衣装を着るときはどんな場合においてもシャワーを浴びなければいけないんです。

杉山 自分は水だけだったり水圧が極端に弱かったり、きつい思いもかなりしました(笑)

松本 あとは食事なんかも思い出じゃないですか?

佐藤 ファントムは美味しかったです。あ、1つ思い出したのが、ゲーターレードを飲むときに各土地の水で味が変わるんですよね。それでテキサスの水は苦くて、みんなお腹をこわしてました・・・もちろん私もです。

杉山 あとは買い物なんかは月に数日あるフリータイムにすることが通常でした。近くにあるスーパーなどにつれて行ってもらって、シャンプーなど必要な生活用品を買っていました。大会会場にブースはあって買い物もできますが、私の場合そこまで行くことはほとんどなかったです。(バスから距離があったので)

佐藤 ツアー中の大きなショーの次の日がだいたいフリーデイで、大きなショッピングモールに連れて行ってくれました。

杉山 またショーが終わったあといつも夜食を食べるんですが、他のコーのバスも近くに停まっているため交流を持つ機会は多いです。私の場合見かけた日本人には全員話かけてました(笑)

佐藤 日本人を見つけると感動しますよね。

香野 私が一番印象に残っているのはファイナルの日。ガードは午前中まったく練習しなかったんです。というのはファイナルより1週間くらい前に全員くじを引かされて、そのくじに書いてある名前の人に手紙を書くという企画があって、それでファイナルの日の午前中に交換するんです。またガードリーダーやスタッフからも手紙をもらったりしました。それから3ヶ月間ウォーミングアップで毎日使っていた思い出の曲をひとりひとりにCDに焼いてプレゼントしてくれたりして。本当に印象に残っています。

4 ファイナルを体験してどうだったか?

杉山 マディソンスカウツは大会会場についてから1時間半ほどウォームアップをします。アメリカでは会場の周りで音を出せる場所が多いので、いつも万全な状態でショーに臨めていた印象があります。 ファイナルではウォームアップにもお客さんが集まってくるため、いつも緊張した空気がながれていました。

古舘 マンダリンズはセミファイナリストなので、私はファイナルの時は客席にいました。一番印象に残っているのはオーディエンスですね。アメリカのオーディエンスは自分の好きな団体だけではなく、どこの団体に対しても同じ声援を送るんです。絶対に叫ぶし絶対スタンディングオベーションだし。演じる側として印象に残ってるのはセミファイナルよりもファーストショーですね。ファーストショーのオーディエンスの声援は忘れません。

佐藤 クォーターファイナル、セミファイナル、ファイナルと、今までさんざんやってきたショーなのに雰囲気がぜんぜん違いました。ファントムは今年創立50周年なので「絶対にチャンピオンになろう」ってみんなで言い合っていて、3ヶ月間練習してきたことをフルに出し切りたいという気持ちで、緊張と情熱をもってショーに臨みました。クォーターファイナルは緊張しててほとんど覚えていませんが(笑)ファイナルは落ち着いてできました。ショーが終わったときに体に震えがくるんです、メンバーのみんなが震えてるのも分かるくらいで。

松本 マディソンスカウツには「Never Walk」というコーソングがあって大会の前には全員で歌うんですが、ファイナルのときは128人がドラムメジャーを中心に丸くなって大合唱、皆が涙しながら歌っていたのが印象的でした。あとは私の場合はセミファイナルが一番楽しみきれたかなという感じです。ファイナルは「これでもう終わってしまうのか」という寂しい気持ちがあって、どうしてもがんばろうと思う気持ちと寂しい気持ちが半分半分でした。

清藤 ファイナルは「夢が叶った瞬間」だったんですが、私の場合はクォーターファイナルが一番燃焼できました。セミファイナルはもう冷静にショーをこなしていて(笑)ファイナルは「あ..終わった」という感じでした。安心感とともに寂しい…という感じで。
なによりもファイナルで、あの「On The Field~」というアナウンスを聞いたときは泣きそうになりました。

香野 私もあのたくさんのオーディエンスの前で演技したい、あの雰囲気にとにかくあこがれていましたので、クォーターファイナルのフィールドに立った瞬間に涙が出てきました。今年のキャロライナクラウンのショーは、最後の残り8拍くらいのところでまだ終わっていないのにすでにスタンディングオベーションが始まっていて、それを感じてショーが終わった瞬間に「絶対来年も行こう」って思いました。練習も辛いし、ツアーに入ってからもバスの中の生活も食事も・・何もかも全部嫌でしたがファイナルの舞台に立ってスタンディングオベーションされたら「絶対に来年も行く」って思っちゃうんです。

やはりファイナルはそこにいって実際に経験した人じゃないと味わうことが出来ない感動と達成感があるようで、皆さん本当にいい経験をしたと思います。さて、では実際にDCIに行きたいと思っても「はいそうですか」とはなかなかいかないものです。実際には数々の問題がありますが、まずは「金銭面」の問題を聞いてみました。

5 金銭的な問題はどうだったか?

清藤 オーディションキャンプから帰国するまでに3ケタあれば…少しおつりが来るくらいじゃないですかね。キャンプにいく往復でかなりお金がかかるので大変です。要は飛行機代が半分くらい・・ですね。だからカラーガードみたいに最初のオーディションで決まってしまえば往復の飛行機代の半分以上は浮くので楽ですね。

佐藤 余計な買い物とかをしなければもう少し浮くんじゃないですかね。(笑)
ファントムの場合はツアー費は積み立てだったので一気に払うということはありませんでしたけど。最近ではスポンサー制度があるのでそれを使っている人もいます。これはボランティアの人のところにツアー中に泊めてもらったり、お金を少し出してもらったりする制度です。私がスポンサーをつけていないと言ったらびっくりされましたけど(笑)

清藤 キャデッツは一括だったんですよね…。とにかく計画してやらないと絶対にだめだと思います。未知の世界ですから…いくらかかるかも分からないし。お金はある程度準備してから動いたほうが何かと得をしますから私はそれをおすすめします。

松本 マディソンスカウツもボランティアの人がいて、その人の家にタダで泊めさせてもらったり、長期滞在しているひとも昔は多かったですね。ビザもマディソンスカウツは発行してくれる人がいて学生の特別なアクティビティということで発行されました。最近はビザ取る人は多くなっています。

やはり年齢的に21歳以下という制限がある以上金銭面に関してはある程度の理解と援助が必要なのかもしれません。またアルバイトをしながら自分でお金を貯めて渡米するというパターンもあるでしょう。さて、金銭面と同じく問題になるのが「言葉」です。これについてはどうでしょうか?

6 言葉の壁はどうするか?

佐藤 何度「もっと(英語の)準備してから行けばよかった」と思ったことか(笑)最初のほうはホント辛いですけど、練習に支障はないくらいの耳はつけることはできました。ファントムは英語とコミュニケーション力が大事です。

古舘 言葉が分かっていて、ただミスしただけでも「英語が分かってないんじゃないか」と勘違いされて辛かったですね。上からメガホンで「だれか説明してやれ」みたいなこと言われたり…。話せるに越したことはないですね。

松本 私の場合はアメリカに留学していてその時にマーチングをやっていたんですが、最初は辛かったですけど、ちょっとでも話せるようになるとより楽しめますね、音楽は共通言語ですから。そこから派生して文化の話やスポーツなどいろいろな話が出来るようになりました。基本的にはアメリカ人は日本人のことを知りたがるので、「何でわざわざアメリカまでマーチングをしに来ているのか」などをよく聞かれて、語り合ったりしましたね。

英語は話せるに越したことはないようですね。英語が少しでも話せるとより一層楽しめるようです。留学する人は日常会話程度の英語を身に付けてから留学するといいでしょう。

さて、念願かなってファイナル出場。そしてエイジアウトとなるわけですがエイジアウトしてどんなことを感じるか、DCIというものに触れて自分がどう変わったのか、ということをエイジアウトした松本さん、清藤さんのお二人に伺いました。

7 エイジアウトしたあとに感じることは?

清藤 まずは(DCIに)行ったことによって世界観がだいぶ変わりました。1つには自分が強くなれるんです。これ以上辛いことはもうないだろうな・・という感じで(笑)練習がというよりも精神的にも追い詰められるので、それを乗り越えて自分が強くなれると思います。2つには、突然起こったことに対して動揺しなくなったことですね。ああ..そうなんだ…みたいな。今までいろんなことに対してあたふたしていた自分が一線を置いて物事をみるようになれるというか、そんな感じですね。エイジアウトして感じることはもう少しいたかったな、ということですね。私の場合は1年しかいませんでしたから。

松本 私の場合はエイジアウトというシステムがあること自体が重要なことだと思っていて、アメリカ人はこれが(DCI)終わるともうあの熱いフィールドに立つことはできないわけですよね。エイジアウトというのは21歳を迎えてひとり立ちする時期だと思うんですよね。マーチだけではなく人間的にも成長しているアメリカ人を見て私はとても彼らを尊敬できました。また彼らはエイジアウト後の夢をたくさんもっていて「自分はエイジアウトしたらこうなりたい」というように次の夢に向かって邁進しているのを感じたときに「自分もエイジアウトするときには考えなければならないな」と感じましたね。

マーチングを通して人間的にも成長するうえにおいてエイジアウトはあるんですね。DCIにいくと精神的にとても強くなれるということがお二人のお話からお分かりいただけたのではないでしょうか? それでは最後になりましたがこれから留学する方のために参加者全員から一言ずつメッセージをいただきました。

古舘 DCIには年齢制限がありますから、行きたいと思ったら「とにかく行く!」これが大事ですね。じゃないと後々後悔してしまうと思うんです。私が言いたいのはとにかく後悔をしないように!ってことですね。

佐藤 大事なことは行く目的を持つことです。私の場合はどうしても一皮むけたくてチャレンジしたんですけどね。やっぱり大きな憧れと目的をもって留学すれば得るものも大きいですから。がんばって下さい!!

松本 こんなに感動が確約されているものってそう無いと思うんです。入って最後までやり抜けば、そこには必ず感動がありますから。ただ、マーチングだけをやりに行くのではなくして、アメリカの生活や文化や、価値観などを学ぶというとてもいい機会であると感じます。留学したら得たものを是非子どもたちに伝えて、今後のマーチングの活性化の一助となってほしいと思います。

清藤 どんな分野でもそうですけど、「世界一」の舞台に立てるというのは一握りだと思うんです。だから楽器を持ってマーチングをやっている人には是非「挑戦」してほしいです!

杉山 DCIに参加して精神面や演奏面で学ぶことが多いのはもちろん、同じ日本から参加している人たちに出会って、そこから繋がりが増えていくこともとてもDCIの魅力的な点だと思いました。

香野 金銭的な部分も言葉も、また親の理解などいろいろ悩むことは多いと思います。しかしDVDで観たあのファイナルの観客の多さとスタンディングオベーションと、日本にはない雰囲気の中でマーチをするというのは、DCIに行きたいと思う人には共通の夢ではないでしょうか? だからツアー中に辛いことがあってもこの夢を忘れないでほしいと思います。今辛い思いをしているからファイナルの感動があるんだ、ってことを忘れず、がんばって欲しいと思います。

皆さん長時間ありがとうございました。これからDCIに留学したいと思う方にとっては生の声が十二分に聞けたのではないでしょうか?特に留学したいと思う皆さんが悩むことを中心に経験者の方々に語っていただきました。この記事を読んでいただいた方が一人でも多くDCIの舞台に立って歓喜の涙を流していただきたいと願っています。

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