諸見 賢/Satoshi Moromi
Drum Corps Fun vol.1(2006年4月27日発行)に掲載
インストラクション
諸見 賢
なんか、カッコいい
中学1年生の時、吹奏楽部の顧問でもあった音楽の先生が見せてくれたビデオ、画面の向こうで外人が楽器を演奏しながら歩き、踊っていた。「なんかよく分かんないけど、カッコいい。」と思って見たのはDCIのビデオでした。中学校2年になり、マーチングの経験のある部の顧問の先生がマーチングを始め、その夏初めて大会に出場しました。毎日の練習を乗り越え、大勢の観衆の前で演技を終えた後のあの“言葉に出来ない充実感”が大好きで、たまらなく嬉しくて、今でも色々な形でマーチングに関っているというわけです。
中学校時代、同級生とのジャンケンで負け、たいして体も大きいわけでもないのにテューバに配属されてしまいました。高校生の頃までのテューバのイメージは「重い」「低い」「地味」。そこで高校2年生の頃、憧れていたメロディーやハーモニーが吹きたくてトロンボーンを吹きました。でも、なーんかしっくり馴染まない…。翌年、結局チューバに戻ってしまいました。なんだかんだ言っても、チューバが好きみたいです。今思う事は「なーんだ、チューバでもその気になりゃ何でも吹けるや。」
毎日修学旅行!!
高校3年生10月の頃だったでしょうか、「音楽は続けたい」と思って何も勉強や準備もしてなかったのにも関らず音大を受験!!そして、不合格!!世の中そんなに甘くは有りませんでした。それなら、「マーチングをしにアメリカに行っちゃおう!」と思い、友だちや知人を頼りにオーディションビデオを作ってアメリカに送ったのが、それから足掛け4年間のドラムコー生活の始まりでした。
1996年から1999年のAge outまでの4年間のうち、最初の2年をPhantom Regiment、後ろの2年をThe Blue Devilsでマーチをしました。その中でも一番思い出に残っているのは、やはり1年目ですね。
高校を卒業した直後だったので、3月中旬だったと思います。アメリカからオーディションの返事が来ました。
返事「ツギノキャンプカラー、サンカーシテクダサーイ」
私 「へ!?Phantom Regiment!?どこ!?何色!?」
その頃の私は、DCIの事、何も知らなかったのです。団体の事や、ディビジョンの事、大会の事…。良くわからないまま、とにかく急いでパスポートやVISAを大慌てで準備してイリノイ州へ飛びました。高校3年の時に不合格になった英検試験は3級。その当時話せた英語は「Yes!!」「Thank you!!」程度、初めてのアメリカ、日本人一人、練習9:00〜21:00、考える間もなくとにかく周りを見て考え、真似をしながら何を言っているのか殆ど分からないまま、頭の中でめちゃくちゃに通訳をしてキャンプを過ごしました。それから5月になり、メンバーも各地から集まり本格的な練習期間に入りました。5月末のファーストショウを皮切りに地方予選のシーズンを迎え、アメリカ各地の大会を回り、8月のオーランドで開催されるDCI Finalを目指します。移動はバス。ほぼ毎日バス。どんなに遠くてもバス。ショウや練習の後に移動します。短い時で大体2時間、長い時で14時間位ある時もありました。このバスが修学旅行みたいで、めちゃくちゃ楽しいんです!もう毎日修学旅行!!みたいな感じで。練習の休憩中等は毎回遊んでました。水かけっことか、追いかけっことか、小学生みたいな遊びを…。8月のファイナルまでの3ヶ月は本当に「アッ!!」という間でした。今思い返しても当時のメンバーには恵まれていましたし、本当に充実した日々でした。
1996年、Phantom Regimentは初めて優勝しました。3位で向かえたファイナルのパフォーマンスが始まった時に、フッと頭の中をよぎりました。
「あ、今日…なんか違う。ひょっとすると… 優勝するかも… 」
不思議ですね、メンバーのほとんどが同じように感じたというのです。こんな事、あるんです。今でも、あの不思議な感覚を求めて色々試すのですが、あの時の感覚以上の体験は未だにありません。
The Phantom Regiment(96-97)とThe Blue Devils(98-99)で計4回ドラムコーの夏を経験しました。1年目は何もかもが新鮮、2年目は少し余裕ができ全体が見えてきて、3年目は少し中だるみ、4年目はエイジアウトの年なので卒業生気分で一生懸命。といった感じで毎年違った面白さがありました。始めはマーチングをする事が目的であったドラムコーが、気がつけば150名もの仲間との共同生活を楽しむ事が目的のドラムコーになっていました。4年間の夏から学んだ事を2つ。
「人間性や性格は言葉を超えて通じていく」
「音楽には言葉を超えて気持ちを伝え、感動させる力がある」
どちらも、言い古されている言葉ですが…。
“イメージ”“考え方”“意識”“素直な心”“習慣化”
1999年にエイジアウトをした年、大学に入学しました。目的は“もっと音楽の事を知りたい”ということ。大学時代は必死でした。週末はマーチングに関わり深夜に帰宅、朝大学に行き楽器の練習をして、講義に出席して夕方から21時頃まで練習、それから夕食をとり、深夜まで音楽理論の勉強やドリル等に取り組む生活。4年間ほぼ毎日続けました。
この頃、「才能があるね」と言われる事があります。私は、自分に才能があるとは、とても思えません。いつも思います“もっと知りたい、もっと向上したい”と。そして、たまにこう答えます。『自分に才能があれば、こんなに苦労しないですよ』
次々と結果を残したり、夢を叶えたり、目標を達成していく人がいます。反対に、なかなか夢や目標を達成出来ない人もいます。私は、個人差はあれども誰でも夢や希望、目標を叶える事が出来ると信じています。何故なら生まれた時は皆、同じスタートラインに立っていて全てが平等なんだから。つまり、能力的な問題は理由にならないわけで、環境も一番の理由にはなりません。それは本人の意思次第でどうにかなるからです。では、どのような違いから差が生じるのでしょうか。
私は、“イメージ”“考え方”“意識”“素直な心”“習慣化”以上5つの要素をどの様に日常の中に盛り込む事ができるかが大きな差となって現れると思います。まとめて言うと、
『半年、1年後等の将来の自分自身のイメージを持ち、そこに近づく為に必要な課題を前向きに、具体的に考え、達成する為にどれだけ意識した時間に身を置けているか。素直な心を持って本質を掴み、達成出来ると信じ抜く事ができるか。そして最後に、それらを日々の過ごし方として習慣化する事』という事です。これら一連の行動を外から見た時、《才能》として写ると、思います。
パフォーマンスが感動を呼び起こします
ここ数年「観客はショーを見ている時に、どこに感動するのか?」ということをよく考えていました。最近自分なりに分かってきた事があって、それはパフォーマンスではないかということです。
高い技術やショーの構成等は、確かに感動させる要因の一つですが、あくまでも音楽やイメージを表現する為の、創作者と演技者、観衆を結ぶ媒体であり、パフォーマンスを通して初めて、見る人はショーとして見る事(認知)が出来るわけです。例えば、人間と機械が同じ曲を演奏した場合、人間の演奏の方が絶対に感動しますよね。これは人間の演奏には機械では表現出来ない雰囲気や空気感、感情の重さや動きが、音の色や重さ強さとして伝わってくるからです。つまり、技術的な事は感動する演奏の一番の要素にはならないという事なのです。もちろん、表現をする為には技術は必要なので技術を否定している訳ではありません。技術の先にパフォーマンスがあるという事ですね。
最近ではどちらかと言うと、技術が重要視されているように思います。しかし、これからは感情をどうの様に「一歩踏み込んで」表現できるかということが大事なのです。
夢
今後は、マーチングが芸術としてオーケストラや吹奏楽と同等なものとして多くの人に広まり、野球やサッカーのようにメジャーなものになって欲しいですね。
その為にはまず、マーチングの特徴である視覚的効果の充実と、オーケストラや吹奏楽とは違った音楽的音響空間を創作する事が重要であると思います。音楽的音響空間と、難しい言い方をしていますが、これはつまり、オーケストラや吹奏楽のような響きを追求するのではなく(会場や音響が異なる為)、マーチングだからこそ可能な響きや音響空間を追求するという事です。その為の絶対条件は、どの世界にも「通用する音」であり、それを作る為の知識や意識、感覚を指導者や演奏者が持つ事だと思います。
アメリカのトップコーのメンバーは約半数以上が音楽を学んでいる学生であり、指導者にはオーケストラプレイヤーや指揮者、教授等、非常に優秀で意識の高い方々が揃っており、高水準の音楽を追究しています。その点を考えると、ドラムコー経験者の集まった「blast」があれだけ世間に認められたのも充分納得がいくのではないでしょうか。
『初めて見ても、誰が見ても、感動出来る演奏演技』を披露する事が出来れば、ファンは自然に増えていくのではないでしょうか。そうすれば、いつか野球やサッカーのようにメジャーなものになる日がくるかもしれません。少なくとも、私はそう信じています。
最後に
中学校の時に出逢った私の青春は、嬉しい事に今も続いています。これまでマーチングを通して多くの出逢いがあり、感動がありました。そして、家族や恩師、友達等、本当に多くの方に支えられて今の自分がいると感謝しています。
皆さんはマーチングのどんな所に惹かれます?どんな所が好きですか?私は数十名の仲間が集まって同じ目的に向かっていく、あの感じがたまらなく好きです。練習等は本当に大変ですよね。時間はかかるし、きついし、苦しいし、汗等で汚いし、何より止まれないし…、でも上達を実感し、目標を達成した時の、皆で感じる“あの充実感”には言葉から溢れるくらいの嬉しさを感じます。私はその瞬間が大好きなんです。これだからマーチングは止められません!!
最後まで読んで下さった皆様、ありがとうございました。皆さんにとって何かのヒントになれば幸いであります。
もし私を見かけたら、声でもかけてやってください。それでは、どこかで。