• Column
  • コラム&レッスン

【マーチングプログラム教室】vol2.ドリルデザインの原則

Drum Corps Fun vol.3(2008年3月25日発行)に掲載

国際マーチング研究所所長
マーチングインオカヤマ総合コーディネーター
マーチングインオキナワ常任審査員

横田 定雄

 ドリルデザインは音楽の引き立て役として考えるのが基本原則で、デザインの根拠もそこにあります。スコアをよく分析して楽器別の音楽的役割(ボイスィングとアンサンブル)、強弱(ダイナミクス)、表現とその意図、感触(テクスチュア)などを視覚的に表現します。基本は音響学と心理学の応用です。

法則 1 フォームやラインの基本

パーカッシブで激しい音楽には鋭角的フォーメイションや直線的なムーブメントをつけましょう。優しい音楽にはなめらかな曲線、女性的なライン、円や弧のフォーメイション、ゆったりとした音楽に合わせてムーブメントをつける。ときには形のすべてを描かないようにすることで観衆の想像力を使う。これら想像線の展開は編成の弱点補強や表現の強化につながる。またテーマの途中で完結した図形の利用はなるべく避けること。形から形に変化することを中心にすると音楽性を損なうことがことになります。

法則 2  距離と方向性

距離感、遠近感は音楽的ダイナミクスと比例します。たとえば小編成で音楽的クレッシェンドができなくても遠くから近くに寄って来れば、音も姿もどんどん大きくなるように感じます。中高音楽器の音の指向性も音楽表現にとって重要です。楽器の向きをよく考慮して無駄のない明瞭な音作りをします。マーチングでは音の固まりが動きます。どこへ動くのか、どう動くのか、これを考慮することが基本です。スペースの効果と重要な関係がありますので組み合わせて利用します。

法則 3 パルスセンター

音楽のパルスセンターをどこに置くのか明確にします。人間の心臓のビートのように脈打つものがデザインに欠かせません。ベースドラム、チューバなどの低音部の位置が重要になることが多いのですが、音楽によっては他のボイスに移動しますから譜読みが基本。ジャズなどではシンバル・ハイハットだけということもあります。パルスセンターを安定させると重量感のあるサウンドになり、移動させるとその速度や停止位置が音楽のフレージングに密接に関連します。ドリルの音楽的コアになります。

法則 4 スペース

ドリルデザインは線を描くことではなく、スペースをデザインすることです。ラインはスペースを作り出す壁にもなります。すべてスペースのバランスと調和、そのスペースの変化で表現がなりたちます。たとえばトランペットのソリストの近くにプレーヤーがたくさんいたら少しも目立ちません。観衆がソリストを簡単に見つけられるようにしましょう。また、形を描いたときに外周を閉じると閉塞感が生じます。開けると開放感、方向性が見えます。音楽との要求に応じるようにします。スペースの収縮、開放はとても重要です。スペースのとりかたは重要なメッセージになり、コミュニケーションの重要な手段です。

法則 5 ステージング

音色、メロディー、ハーモニーなどをパート別、セクション別などに描く前に把握し、音楽的意味と役割に応じた演奏位置を企画しておきましょう。それらの関係の度合によって互いの距離、形、動き、速度などの調和を考えます。たとえばクラリネットとトランペットが同じ旋律なら同じフォームにグループ化したり、対旋律などは異なる形、動きをつかって楽器の配置と動きをきめます。フレンチホルンとアルトサックスは同じ音楽を担当することが普通なので音作りを重視する場合はグループ化します。ソロは同音域の楽器からアイソレート(隔離)すると浮き上がるようになります。

法則 6 テクスチャー

音楽は多様性に富んでいます。ドリルデザイン上も常にその性格、表現意図にできるだけ合わせて考えます。ひとつの大きなグループとしてだけフォーメイションを作らないで、ラインを中心にデザインしたらブロックも混ぜるとか、全体を通じて見ていて飽きないようにします。同じようなフォームが続くと眠くなります。小編成が大きく見せようとスペースを広げすぎるとラインもスペースも意味がなくなり、サウンドも拡散して効果は全くありません。ステージを最初から小さく設定し、収縮・拡大を使ったり、分離・結合、拡散・収束、などの技法で音楽を視覚的に表現します。

法則 7 フォーカス・コントロール

デザインとはフォーカス(観衆の目の置き場)を作ることです。観衆にどこを見てほしいか常に視覚的に示唆しましょう。いい音楽には心ひかれるものがあり、ドリルにも当然視覚的な吸引作用があります。通常、ソロや主旋律のセクションなどに注目を集めるようにします。とりわけこうした場合は観衆の目は少数のプレーヤーに集中しますから、映画や芝居の主役のようにデリケートな演出と演技の特訓が必要です。全体のドリルを漠然と眺めている観衆はほとんどいません。必ず目立つ人や動きを見ています。常にそこには音楽と視覚のフォーカスを融合させます。アイソレーション、コミュニケーション、スペースなどで操作しましょう。

法則 8 形や動きの表現

音楽と視覚は役割を大別すると、音楽は感情、視覚は理性です。音楽は直接感情に働く作用が強く、視覚ではそれが非常に限定されます。色彩による効果は大きいように思えますが音楽に比べたらとても小さく、ラインやフォームはさらに弱いのです。視覚も音楽も複雑になるとよけいに意味がつかみづらくなります。これらには見る人の知識と経験によっていろいろな意味をもちます。形や動きにメッセージのあるものも効果的に使いましょう。また、音楽に合わないと全く意味がなくなりますから、常に音楽の意図に合うように考えましょう。

法則 9 やさしいドリルはむずかしい

おうおうにしてドリルコンテのデザインが難しいものはプレーヤーにはやさしいのです。たとえば直線はデザインしやすくてもプレーヤーにとっては難しいです。見ためがシンプルなので観衆にはできてあたりまえと思われてしまいます。逆に、曲線は描くのは手間かかりますが、プレーヤーにはやさしくなります。直線ほどの正確さやクリヤーさはいりません。観衆も本来の正確な曲線を見つけようとはしません。また、コンテのシートに書かれた部分はほとんどが動きのジョイント部分で、音楽的にはフレーズの起承転結の起と結の部分です。多くのひとがシート単位で考えてますが、実際はシートに書かれていない部分が真のパフォーマンス部分です。大変ですが、この部分を明確にすることがデザイナーの仕事です。くれぐれも形から形に移動するだけのショーにならないようにしましょう。

法則 10 ステップは表現

テンポ/カウント=ステップとは限りません。スローでも緊迫感のある曲などではステップ数を倍にしたりすると効果があります。またテンポは速くてもメロディーが明瞭なときなどはステップ数を半分にするといいでしょう。またステップの数だけでなく、ステップサイズは心理的にとても観衆に強い影響を与えます。スローでステップサイズを大きくするとムードが弛緩し過ぎることもあります。観衆は足の動きには常に関心を払っています。見ていないようでいてようでいてしっかり見ていますから、逆にうまくやると非常に効果的です。そして、ステップ=音楽表現になります。ダウンビートよりもアップビートが重要です。表現力の源は膝が上がって動いているときです。ドリルのコンテはダウンビートを基本にカウントで描いていますが、実際は音楽を良くするためにもアップビートのコンテに描けない部分を描く前から考慮してデザインしましょう。

法則 11 フレージング

視覚的音楽性を重視しましょう。音楽のフレーズと動きのフレーズをそろえたり、音楽のアーティキュレーションと動きのそれを合わせます。たとえばフレーズの途中で音楽に無関係に突然ターンしたり、音楽に強力なアクセントのあるときに動きはまったく変化がなかったりしたら、視覚効果が音楽効果を破壊したり、無視するということになります。音楽は台本であり脚本です。音楽のフレーズは通常、低―高―低、というような山を作り、ふくらんで、またしぼむ、というような表現が基本です。視覚的にもこうした原則に合わせることが基本です。ドリルの動きにもフレーズが必然的に生じます。ブラスのプレーヤーが息を吸って、吐き(演奏)、また吸う。このときの身体の動きのようにドリルのフォーメーションに変化をつける。こうした基本で大きく考えていくと、まさしく呼吸するドリルが生き物のようになってきて、観衆がとても感動するでしょう。

法則 12 描くよりも消す

複雑すぎると効果は減ります。音楽家にも言えることですが、がんばると言うことは音符の数とは比例しません。また、ラインや形の複雑さということでもありません。複雑であったり、重々しくなるところも、できるだけシンプルに描いて、効果があるように考えます。書くことよりも、消すことの理由も考えましょう。ドリルや野外演奏では、音楽もシンプルなボイス構成が効果的です。大きなバンドでは特に意味のないラインが増えがちです。大きなバンドはできるだけ小さく見せるように、またときには一部を休ませてしまうほどの大胆さが必要です。一番不足するのがゆとりをもったスペースです。視覚的には、量的、質的な簡潔さが重要なのです。また小さなバンドでは線に見えないラインやフォームを作っても決して大きくは見えません。小さいなりにコンパクトに描き、きちんとした壁を作り、そこにスペースを作ります。大宇宙ではなく、小宇宙をうまく作るようにして、その中に視覚的なコントラストを演出します。想像線(消しゴムで描くライン)を積極的に使って迫力を生むようにします。コマ漫画のような小さい空間にも迫力をつけることは可能です。

法則 13 クライマックス

クライマックスのないショーは観衆の記憶に残りません。名演奏でも、名演技でも感動してもらえません。結果、ただの時間つぶしになります。富士山はなぜ世界的にも美しい山と言われるのか。理由はかんたん。周辺にひとつも高い山がないからです。ショーの作り方も同じです。観客が記憶するのはそうした部分です。演奏が、端から終いまでフォルテで演奏し、ドリルもごちゃごちゃ動き回るだけではどこにも感動が湧きません。マーチングバンドが一番苦手な部分がピアノで穏やかに歌うこと。こうした部分がないとクライマックスは作れません。音楽のコンフィギュレーション(起伏、流れ)は感情そのものです。ドリルもそれを十二分に読み取って演出を構成しましょう。

法則 14 縦線と横線

スコアで見るときに縦線はアーティキュレーションや各パーツのテンポ、リズムが揃うことですが、リズムなどのサウンドやメロディーラインの時間軸上でのつながりや展開が横線です。ドリル上でも横線の動きはスコア上と同様に考えます。総合的なドリルデザインの時に決定的な視覚要素となることが多いので重要です。

関連記事一覧