ビューグルを演奏する楽しみ
Drum Corps Fun vol.1(2006年4月27日発行)に掲載
さて、ビューグルという言葉を聞いた事があるでしょうか?ドラムコーで使用している金管楽器の事をビューグルといいます。
ビューグルとは、多くの管楽器のうちの一つです。ドラムコーに関わっていない限り、あまり耳にしない言葉だと思います。
実際、吹奏楽やオーケストラの世界では通常耳にしない言葉ですから(以前、指揮者のアレンジの関係でしょうか、吹奏楽の楽譜で「Bugle」という指示表記を見たことがありましたが何の曲だったかなぁ…異例でしょうか?(笑))
私は専門家ではありませんので難しいことは書けませんが、少しでもビューグルの世界を知っていただければと思います。
ビューグルの歴史は軍隊の信号ラッパにまでさかのぼります。軍隊では行動を起こすときにはラッパ(Bugle)の奏者が色々なファンファーレを吹いて隊員に指令を送っていました。「起床ラッパ」「突撃ラッパ」などという言葉はおそらく耳にしたことがある方もいるかと思います。ラッパと言っても、トランペットのような形状ではなく、一本の管を2~3回ほど巻いただけの楽器でしたので、出せる音はかなり限定されていました。大きな音を遠くに伝達しなければいけないという目的があったため、G調のものが多く使われていたと言われています。G調のビューグルは楽器の管の特性上、太い音がダイレクトにまっすぐ飛びます。
大戦終戦後は、そのビューグルを利用した青少年の社会教育活動という目的の音楽活動が、盛んに行われるようになり、その後コンテスト化され、音楽性を持つショーとして発展してきました。音楽表現を豊かにするには使用できる音が多いにこした事がありませんので、当時考えられたのは通常のビューグルの1オクターブ低いテナーボイスの導入から始まり、ピストンバルブを1つ追加する事なども考えられました。これでいくらか使用できる音が増えましたが、足りない音はチューニング管をトロンボーンの様にスライドさせて演奏していました。当時のBugle製造メーカーは、操作性を向上させるためにピストンバルブの他に、もう一つバルブを追加することを考えました。試行錯誤の後出来上がったのが、ロータリーバルブです。チューニング管にロータリーバルブが付いたものをオプションとして発売を開始しました。(参考:発売当時のGETZEN社のカタログ)更に、様々な音質、音域を兼ね揃えた楽器が開発されました。例えば、フレンチホルン・バリトン・コントラバス・メロフォン・フリューゲル等があり、全てG調フロントベル(朝顔が正面を向いている)であるという統一した規格で、各メーカーでオリジナルの楽器を製作していました。
DCI(Drum Corps International)の組織が確立してからのビューグルの発展は凄まじく、ロータリーを外してピストンバルブを2つ並べたビューグルが開発されました。(参考:DYNASTY社の当時のカタログ)その後トリガーが自在に扱えるように改良を重ね、ついには全ての音が使用できるようにピストンバルブを3つ並べたビューグルが出来上がりました。特にソプラノビューグルに関しては、トランペットやコルネットと類似した形状となりました。現在では3ピストンバルブのビューグルが主流です。
以上のような歴史を持つビューグルは、他の金管楽器とは全く違う環境で変遷を遂げてきました。だからこそ広いスペースでのショーに適した楽器が出来上がってきたのですね!
先ほどお話しましたが、ビューグルは他の金管楽器とは管の形状が少し異なります。G調のビューグルは、ピストン側からベルにかけて、ゆっくりと管が太くなります。そして管が長い事もあって少し息を吹き込むのに訓練が必要ですが、息をしっかり吹き込むことが出来れば、太くはっきりしたサウンドがまっすぐ飛びます。ドラムコーのショーをより効果的にするために必要な、音の指向性を、より高く備えられた楽器ということです。このような特性を持ったビューグルをしっかり鳴らすためには、先ほどお話したように、息をしっかりと吹き込み、よりシビアなブレスコントロールが必要です。息がしっかり無駄な抵抗無く楽器に吹き込めるか、そしてその空気とアンブッシュアにより作られた音の波形が楽器の中で吸収されること無くベルから飛ばすことが出来るかがポイントです。ただ闇雲に息を入れれば良い訳ではなく、口腔の使い方もポイントとなり、この出来具合でサウンドの色が様々に変化します。ビューグルプレイヤーはこのような状況の中、練習を積み重ねてビューグルサウンドを作り上げていきます。
ドラムコーはソプラノボイスからコントラバスボイスまで、全ての楽器がG調で統一されているので、ウォームアップはどの楽器も全員一緒に同じ事をトレーニングしていきます。シーズン当初は、ベテランもビギナーも関係なく、基礎練習からスタートします。基礎練習は重要で、その達成度によりショーで使用する曲の難易度も変わるし、音楽表現の豊かさにも影響します。ベテランメンバーは音楽のクオリティを高めるために技術を磨き、ビギナーのメンバーはそれに続き、追いつこうと努力します。このやり取りで個人の技術が高まっていきます。同じレベルの仲間同士ではライバル意識も高まり、お互い自分の力を振り絞って負けずに練習をするメンバーもいます。
これからの時期はメンバー募集を行っている団体がほとんどです。中には体験練習出来るところもありますので、今シーズンやってみようと思っている方は、色々な団体の練習を見学してみると良いです。きっと自分に合った団体が見つかることでしょう!ドラムコーの、特にビューグルラインは、制限された条件の中で過酷な練習を積み重ねて行きます。つらい練習がたくさんあると思います。しかし、同じ経験を共にする仲間がいるからこそ続けられるし、出来なかったことが一つ一つ達成してくるとやりがいが出てきますし、本番を繰り返す事によって完成度が増し、より良いショーが出来るようになると、楽しくて仕方がなくなってきます!つらい練習も乗り越えちゃいますよ!!
トップシーズンになると、ランスルーという、ショーの通しリハーサルをよく行うようになります。これは、本番を想定して初めから最後まで全てのショーを通す事を言いますが、大体のチームでは一日の練習の最後に行うことが多いです。ランスルーを行うと、特に本番が近くなると気持ちが高揚し、涙まで溢れてくる時があります。ここで、ある団体のDCJ前日の出来事をご紹介します。
『午前中は、ミーティングの後ストレッチを全員で行い、セクションでウォームアップを行った。最近、ベルの高さを変更したのでホーンズアップの時は楽器の位置に気をつけるようにという事と、ピッチを合わせるという事の指示が出た。パートのメンバー同士でお互い聴き合いながら正しい楽器の位置をホールドし、良い音を作るように努力した。そしてドリル練習になり、今日はエンディングの練習を行った。毎週毎週、エンディングのドリルが変化していく。クリーンになるところもあれば追加される事もある。次第に気持ちが入り、練習を繰り返すたびに目が潤む。
午後は入場からオープナーまでの練習。ドリルの細かいところを一つずつ確認し、出来るまでやる。そして、とうとう今シーズン最後のランスルーを迎えるときがきた。ランスルーを迎えるにあたり、インストラクターに「諦めない・誤魔化さない・ミスしない」という3つを守れるように努力することを教わった。約10分の休憩の後、とうとうランスルーのスタート。オープナーのファーストプッシュGO!気持ちが入ってとても爽快だ。複雑に交差するドリル…インターバルは良いかな?バラードでは暖かい息を使って豊かに演奏。そしてクローザーからカンパニーフロントへ!ここでは演奏しながら毎回泣いてしまう。そしてエンディング。今シーズンはダウンエンディング。これまた泣ける。…あっという間にランスルーが終了した。辺りを見渡すと、達成感で気持ちが高まって泣き出す人や、出来なかった箇所があって悔しくて涙している人も…自分はどうだったのだろう。自分の出来る事の何パーセント出来たのだろうか…色々と考えているうちに今日の練習が終了した。
最後のミーティングで、インストラクターから話があった。
「このメンバーでランスルーを行うのはこれで最後です。あとは最後の本番を迎えるだけです。本番で100%の力を出し切って目標を達成できたら、それは心から喜べる結果になるだろうし、そして今まで練習してきた甲斐があったとも思えるだろう。しかし、もしそれが達成できなかったならばもちろん悔しい思いをするだろう。最後のランスルーをやって、「あそこはもうチョット出来るだろう」とか思って後悔するのならば、辛いだろうけれど自分の100%をショーに注ぎ込むようにすれば良い。自分は皆にチャンピオンを獲って欲しいから自分の全てをショーに注ぎ込んできた。でも、もし納得がいかない結果だとしても悔しいのは皆だし、後悔もするだろう。だったら悔いの残らないショーを、自分の100%のショーをして欲しい。そうすれば悔いは残らないはず。本番までまだ出来ることはたくさんある。皆で頑張って、良い結果を出して皆で喜ぼう!」
この話を聞いて、メンバーはみんなしばらく静かに考えていた。自分は何が出来るか、どうすればそれが達成できるか…』
どうですか?本番を直前に迎えて緊迫した状況が伝わったでしょうか?皆さんは何か辛いことがあったとき、気になることがあったとき、どうしますか?あっさり諦めますか?それとも何か手掛かりを見つけて解決しようと努力しますか?諦めてしまって、まるで何も無かったかのように振る舞えばそんな楽なことは無いですよね…でも、後悔したりすることは無いですか?自分が出来ることを100%出し切って頑張ることの大切さ…そんな事を勉強する事が出来るし、体験出来る素晴らしい環境、それがドラムコーの世界だと私は実感しています。一年間通して活動してきた事は、実生活にも役立てることが出来るでしょう。「諦めない・誤魔化さない・ミスしない」これを達成するという事は実に大変なことだと思います。ドラムコーの活動を通して、それを達成するカギが見つけられるかも知れません。このやりがい、楽しさをたくさんの人に教えてあげたい。そう思います。