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もっと楽器を知ろう!金管楽器のピストンについて

Drum Corps Fun vol.2(2007年4月11日発行)に掲載

皆さんは自分の楽器のこと。どれだけ知っていますか??意外とメンテナンスで困った、音が突然でなくなった、なんてことありませんか?修理かな・・・と思う前に自分の楽器のこと、もっと知ってみましょう!今回はmusicmartでリペアを担当している伴元秀さんに金管楽器のピストンについてうかがってみました。

もっと楽器を知ろう「ピストン」編

多いのは修理をしていて壊れていないのに修理に持ってくること(笑)まあこれは冗談で、金管楽器(特にトロンボーン以外のピストン系)のピストンを入れ違えて音が出ない、というのがあります。1番のピストンケーシングに2番ピストンが入っているとか…。これは1つの楽器のなかでの出来事ですが、他の楽器のピストンが入っていたり、ごちゃごちゃになっていることもあります(笑)。

ピストンには番号がついていて、「1」「2」「3」と表示があります。トランペットはこの表示なんですが、楽器によってはこの表示がないものがあります。ユーフォニアムなどは「1」「2」「3」の楽器もありますが、「・」←点で表示されている楽器もあります。1番なら「・」2番なら「・・」という感じに。ただ最終番のピストンは無表示の場合もあります。3本ピストンの楽器なら3番ピストンは「・・・」または無表示になります。さらにピストン番号の表示位置に関してもトランペットは、大体ピストンの真ん中上部あたりに番号で表示があるので、分かりやすいと思いますが、ユーフォニアムやチューバはピストンの上部分に数字、または先ほど言った「・」で表示されています。バルブガイドに隠れて分かりにくい楽器もありますし、無表示のピストンもあるので、ピストンを取り出したときに分からなくなってしまうという事態になるんですね。

あと良くあるのはバルブガイドが裏返しについていることです。これは主にトランペットのバルブガイドに多いんですが、この場合は吹けないということはないですが、ピストンを動かしたときに出るノイズが多くなります。吹いていてノイズが多いな・・・と思ったらピストンのバルブガイドを調べてみるといいでしょう。意外とこうなっている場合が多いです。

またピストンはバルブガイド(スピルともいいます)が正しく取り付けられていないと、ピストンがクルクル回ってしまって音が出ない原因となります。このバルブガイドが削れてしまっているとピストンが回ってしまったり、引っかかってピストンが動かなくなることもあるので、定期的な交換をおすすめします。また、ピストン軸でバルブガイドを固定するタイプは、バルブガイドの突起が違う穴に入ってしまっていると、正しい向きにならず音が出ません。

トランペット等でバルブガイドの突起が両側に出ている楽器の場合、バルプガイドが反対の向きに入っていることもあります。これはバルブガイドが通る溝の幅は異なっていて、本来は入りにくくなっているんですが、バルブガイドが削れてしまっていて反対側に取り付けられてしまっていることがあります。この場合、向きが180°変わるので当然音はでません。2つの突起のあるバルブガイドと受ける穴はそれぞれ大、小になっていて向きが定まるように出来ています。

もっと楽器を知ろう「ピストンと倍音」編

次に、普段何気なく吹いているトランペットですが、音の出るシステムや実際の数値でみる音程のとり方など、実はとても深い意味があるんです。そこで次はバルブシステムのことを少し詳しく紐解いてみることにしましょう。

トランペット等のバルブシステムの金管楽器はピストンの組み合わせで、現代一般的な1オクターブ12音の音楽を演奏出来るようになっています。自由な転調を可能にしたのが平均律で、完全5度を組み合わせた純正律を少しずつ歪ませで作ったそうです。それに対してピアノやオルガンは平均律に従っています。ピストン式の金管楽器は、自然倍音列で出る音にピストンを組み合わせて、現代の曲が演奏出来るように作られています。
金管楽器は息の速さや圧力を変えることで、基音の周波数の整数倍(2倍、3倍、4倍、5倍…)の自然倍音列が出ます。倍音で出ない音を補う為にピストンが作られました。(表1参照)

上から4つ目の半音3つ(短3度下降)はピストンの組合せ(1+2)か (3)のみ押さえると出ます。普通の運指は(1+2)です。(1+2)と(3)では音程が少し違います。
このことをご存知の方は多いと思います。(1+2)で音程が高くなってしまうところで、(3) を使ったりします。半音1つ(2番ピストン)+ 半音2つ(1番ピストン)→ 半音3つ
3番ピストンを押せば単独で半音3つ分下降します。上述したように、平均律は1オクターブを12等分したものですから、金管楽器は長さが2倍になれば音程は1オクターブ下降します。

12等分した半音下降分は元の音を1とすると0.059463…
(これは比率です)
例えばB♭トランペットは真直ぐのばすと約1,400mmと言われているので、半音つまり2番抜差の長さは 1,400(mm) × 0.059463 ≒ 83(mm) 半音下降は元の音の長さである 1 を足して 1.059463 (比率です)この値を2回掛けると長2度下降、3回掛けると短3度下降、12回掛けると2になり、1オクターブ下降します。

半音1つ(2番ピストンがこれに相当)は 1.059463

半音2つ(1番ピストンがこれに相当)は 1.059463 × 1.059463 = 1.122462

半音3つ(3番ピストンがこれに相当)は 1.059463 ×1.059463 ×1.059463 = 1.189207 ①

同じ半音3つでも 1番ピストンと2番ピストンの組合せでは、
1(オープンの全長)+ 0.122462(1番抜差分)+ 0.059463
(2番抜差分)= 1.181925 ②
①と②とは 0.007282 違いますね。1番ピストンと2番ピストンの組合せは値が少し小さくなります。この値にB♭トランペットの全長(約1,400mm)を掛けて見ると

1,400(mm) × 0.007282 ≒ 10(mm)

普通の運指(1+2)は(3)のみに比べて約10mm短くなり、音程が少し高くなります。
必要なときは第1トリガーを約5mm抜くのが良いと言えます(計算上)。楽器の設計、奏者の違いなど様々な要素があるので、この計算は目安と考えてください。計算した値を鵜呑みに出来ないのですが、他の組合せはどうなるかやってみて下さい。組合せが多くなると大きな値になります。それが抜差管にトリガーが付いている理由です。本来掛け算であるべきものをバルブシステムは足し算なので、組合せると本来の値からズレてしまうんです。

普段何気なく使っているトランペットのピストンや倍音の関係はこんなにも複雑だったんですね。みなさんもぜひ自分の楽器のピストンをはずしてみたり、音程や倍音のことなどを調べてみると、新たな発見があるかもしれません。是非お試しあれ!!

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