大和ドラム&ビューグルコー

Drum Corps Fun vol.1(2006年4月27日発行)に掲載

大和ドラム&ビューグルコーは、日本の若者たちに音楽活動を通じて個人として卓越する機会を与えたいという主旨のもと京都にて創立された。 その主な活動は、毎夏アメリカで開催される、DCI(ドラムコーインターナショナル)主催の世界大会に参戦するためのアメリカ遠征を行うことである。

1997年、私、ボビー大槻(現:テンハット代表)の呼び掛けで、ジョン・ミーハン(現:ブルーデビルズ・ブラスキャプションヘッド/JKSミュージック代表)、エドワード・マーチン(現:マーチングワールド・インターナショナル代表)の3人のパートナーにより創立。1995年のブルーデビルズのツアーへの同行が3人を堅い絆で結び付け、その経験が大和創設の基となっている。

80年代にはほんの数名だったが、90年代に入って多数の日本の若者たちが本場アメリカのドラム&ビューグルコー(以下ドラムコー)に参加するようになっていた。アメリカ帰りの若者たちは素晴しい人物が多く、ドラムコーでの経験を積み重ね人間的に大きく成長していた。しかし、その大半がアメリカに行くために進学を断念したり、学校を休学または退学したり、仕事を退職したりと、ある意味では人生を投げ売らないと、アメリカのDCIに出ることが難しいという現実もあった。

残念ながら我々の物質社会では働かないと生きていくことができない。将来の社会進出は人生にとって最重要であることは周知の事実だ。しかし、学校の授業などでは得ることのできないドラムコーでの経験が、人間形成に大きく役立つことも事実であり、その全てを可能にすることができるドラムコーを日本に創ることができないだろうか・・・そんな発想から大和は誕生した。

国内での学業や仕事と両立でき、しかもアメリカツアーを行ってDCIに出場するドラムコー。スケジュールを簡素化することでそれは可能だったが、だからと言って弱いドラムコーでは魅力に欠ける。いくら簡素化しても素晴らしいショーを展開する強いドラムコーでなければならない。そのためには国内外の超一流スタッフが必要となる。しかも楽器やユニフォーム、更には運搬車などすべて購入しないといけないというゼロからの出発のため「そんなドラムコーを創ることは絶対無理!」と人々は口を揃えて言った。

しかし私からの呼び掛けに答え、この発想に賛同するアメリカと日本の多数のマーチングスタッフが参加してくれることとなり、そのほとんどがブルーデビルズ経験者または現役スタッフという考えられないほど豪華なスタッフ陣となっていた(歴代スタッフには、かの石川直の名前も!)。そして様々な工夫と努力の結果、楽器やユニフォーム、そして運搬やキッチン用のトレーラーなど、すべての備品を新品で揃えることができ、大和は夢を現実のものとすることがきた。

このように誕生した大和も今年で10年。昨年2005年夏も大和はアメリカのDCIディビジョン3決勝に進出し、第3位、銅メダルを受賞。これで通算5度目、4年連続のトップ3入りとなり、史上初の快挙を成し遂げた(うち、銀メダル2回、銅メダル3回、ディズニーアワード2回受賞)。決勝進出は通算7回目。毎年30以上ものドラムコーが出場するディビジョン3で、このような結果を維持することは並大抵のことではない。

大和のツアーがとても短いことは有名で、アメリカのドラムコーに比べ1/3にも満たない。土の中で長く眠り、数日間のみ地上で生活する「蝉の一生」に似ている。現在では日本人とアメリカ人それぞれ半々のメンバーで構成される大和は、春以降、各国それぞれで数回のリハーサルを重ね(日本国内では約6回)、夏のツアーで初めて出会い、たった5日間の「奇跡のキャンプ」でショーを完成させ、何ヶ月も練習に練習を重ねてきたアメリカのドラムコーに追い着き、そして追い越す。この奇跡はアメリカのドラムコー界にとっては驚異であり、「インスタントコー」という新しい用語まで生み出してしまったぐらいだ。

昨年も7〜8月にかけ、この約1ヶ月の渡米ツアーを開催したが、いつもながら楽しくて夢のような日々は一気に過ぎ去った。ツアー中にはもちろん、日々大なり小なりドラマティックで感動的な展開や、涙なしでは語れないメンバー個人個人の成長物語や、ニューヨークでのフリーデイなど、紹介したい出来事はたくさんあるが、個人情報云々ということにもなってしまい兼ねず、なかなか難しい現代・・・ということで、ツアー日記ではなく、少し違う観点から大和のことを書きたい。ちなみにここに掲載している写真はすべて2005年ツアーのものであり、ツアースケジュール詳細やスコアは別表を参考にしてもらいたい。また更に詳細をという場合は、大和ウェブサイト内「大和日記」をご覧いただければと思う。

本年2006年、それは大和にとって記念すべき10周年を迎える年。初年は今年だけはと・・・2年目は3年まではと・・・5周年まではなんとか・・・いや10年まではと、金メダルを取るまではとの思いで続けてきたが、未だに取れないのは、きっと神様か誰かに「ずっと続けるように」と言われているのだと最近思う。飽き性の私が「継続は力なり」という言葉の意味がやっと分かり始めた気がするからだ。先日とある会で、「毎年エントリーし続けるということが素晴らしい!」と声をかけていただき、素直に嬉しかった。
大和を始めた当初は、日本に同じようなドラムコーが次々にできるだろうと思い込んでいた。同じ考えを持った人々がいて、たくさんの団体が出現すると! だからこそ、何事にも「日本初」とかいう言葉に弱い私は、大和のことを思いついて以来、1日でも早く始めないといけないとあせり、発想から約2年で実現に漕ぎ着けた。しかし、大和のような団体、そう、DCIに毎年エントリーするための団体は10年経った今でも大和しかない。できないのか、やらないのか、やれないのか、それは不明だが、大和しかない以上、これが自分のライフワークなのだと、最近ようやく思えるようになってきた。

大和を続けていく上で、最も大変なことはやはり金銭面。現在のところスポンサーや収入源のない大和は、メンバーのツアー費によって主に運営される。こんな小さな団体でも年間数千万円の資金が必要となる。全員分の楽器、ユニフォーム、エクイップメントなどをすべてこちらで用意。ショー創りと指導は超一流のアメリカスタッフ。日米を飛行機で往復し、スタッフを含め100名近い人間が約1ヶ月アメリカ大陸を横断しながらショーに出場し続ける。乗物だけでも、メンバーバス2台、スタッフバス1台、コンボイ(古い?)のような巨大トレーラーで楽器を運び、連日1日4回の全員の食事をまかなうキッチン専用トレーラーなど。それに毎日の宿舎、練習場所、保険、大会参加などなど・・・何に置いてもお金がかかる。というかかかり過ぎる。

正直なところ大和は毎年大赤字だ。9年間累積すると恐ろしい数字になる。私などは大和の赤字を埋めるべく日々働いているようなものだ。そのすべてはメンバーのツアー費だけでは到底まかなえない。ではなぜ身銭を切ってまで私が大和を続けるのか。それはもちろん「夢」だからだ。アメリカには、ツアーには、DCIには「夢の世界」がある。1984年、私がDCI観戦のため初渡米した際、そこには夢の世界があった。人間良い夢を見てしまったら、ずっと見続けたいものだ。

過去9年間、大和に参加してくれたメンバーたちは皆、ツアーに来ればその価値を分かってくれる。エイジアウトまで4年間連続で続けたメンバーは今まで多数いる。メンバーたちは大和ツアーの中で、きっと僕と同じ夢の世界を見つけてくれたのだろう。今後もたくさんの若者たちと共に、この夢をずっと見続けて行きたい。大和を創った理由はたくさんあるが、このことこそが一番の存在意義なのではと思う。ここまで続けて来れたのは、夢を共に追い続けてくれたメンバーとスタッフのおかげだ。

大和10周年の今年、今後のことをどう考えていくべきなのか。アメリカのドラムコーが経済的理由などで次々と潰れる昨今、この大和の火を永遠に灯し続けるためにも、日本国内での活動が急務だ。これまでの大和は自分たちのことだけで精一杯だったが、この9年間で本場アメリカから得たことを、日本にもっと広めていくことが必要なのだと思う。いかに「伝え」「育て」「残す」かが大切。そういう意味においても、また大和10周年の記念事業としても、これまでの渡米組に加え、念願の国内組をスタートさせる。そう、大和が国内の大会でショーを披露する日が遂に来るのである。

そして更に、年度末となる来年2007年3月24日(土)には、大阪厚生年金会館大ホールに於いて、大和10周年記念公演「倭音」(WAON:仮題)を開催。「ブラスト!」のスーパースター、アダム・ラッパを始めとする豪華ゲストが出演し、あの石川直の監修による大和とのコラボレーションで、日本におけるマーチングの新しい可能性を追求する。現在、渡米組/国内組/日米組メンバー、そして記念公演出演キャストなど大募集中!今年限りとなるかもしれないこのチャンスにぜひ!

大和ではマーチングが楽しめるだけではなく、同時に本場アメリカの最新のマーチングを学ぶことができる。渡米組はもちろんのこと、国内組においてもアメリカの一流インストラクターの指導を直接受けることができる。また英会話やドリルデザイン教室などの開講も予定しており、将来マーチングインストラクターを目指す方、ブルーデビルズなどDCI出場のアメリカのドラムコーを目指す方など、大和はあなたの夢を叶える第一歩となる。大和の卒業生たちは現在もブルーデビルズ、サンタクララ・バンガード、ザ・キャデッツなど、アメリカの一流ドラムコーで活躍しており、もちろん日本のマーチングシーンでも活躍している。ぜひ大和へ! 共に夢を叶えよう! そしてここ日本で、「夢の世界」を創りあげるべく、共に新たな一歩を踏み出そう! Yamato Forever.

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