【table×talk】大川勝己氏×鎮守めぐみ氏
Drum Corps Fun vol.3(2008年3月25日発行)に掲載
マーチングプログラムコーディネーター
大川 勝己 氏
劇団四季音楽監督
鎮守 めぐみ 氏
区民ミュージカルやクラブ活動でミュージカルに取組む学校が増え、修学旅行や総合的な学習の時間を活用してミュージカルの芸術鑑賞をする学校も増えています。一方、舞台(ステージ)の世界でもブラストをはじめ楽器を取り入れたステージも多くなってきています。人数が少ない、大きなフロアで練習が出来ないとマーチング諦めてしまった方々に少ない人数でもメッセージを発信して何かを伝えられるステージの魅力が、マーチングを始めるきっかけになっていければと願いまして、今回、舞台とマーチングの関係を日本の最先端でご活躍のクリエーター劇団四季 音楽監督 鎮守めぐみさんとマーチングプログラムコーディネーター 大川勝己さんのお二人にお話し頂きました。
大川 マーチングをご覧になっていかがでしたか?
鎮守 あのように複雑なことをやっているとは思いませんでした。8分間の中に様々なドラマがありますね。それと舞台と違って空間の制約がありませんから、人数も多いし、スケールの大きさを感じました。しかも規律正しい。
マーチングは演奏の技術だけでなく、色々な要素が必要でしょうから、学校のクラブ活動としてはとても素晴らしいプログラムですね。指導する方も、生徒さん達も、根気のいる大変な練習を日々行っているんでしょう?
大川 そうですね。技術だけでなく、チームワーク、体力、サービス精神…。皆、自分の限界を超える努力をしています。
鎮守 マーチングといえば、アメフトの試合のハーフタイムショーの印象が強いのですが、そもそもどのようにして、始まったのですか?
大川 コースタイルマーチングは、軍隊で使うG管信号ラッパがその起源です。ボーイ(ガール)スカウト的な活動に隊のシステムを組込んだ音楽が出来ないかとスタートしたと聞いています。現在の最先端は、ブラストですね。文字通りショービジネスまで発展しています。80年代後半から90年代前半にかけてカラーガードがダンスを取り入れ、どんどん進化し続けています。
作品を創るにあたっても、多くのやり方がありますが、私の場合は、まず作曲家を決め、多くの曲を聴いてから選曲します。作曲家の生涯を学んでもらいながら、プレーヤーの気持を盛り上げていきます。演奏するプレーヤーの方々も、観客のお客さんも楽しめるようなショー作りを目指しています。
鎮守 コンクールで賞を取るには、企画が大事なのでしょうね。もちろん技術も大切でしょうが、ショーとしての構成が一番のように思います。選曲、編曲、振付などもかなり重要なウエイトを占めているようにみえました。
大川 段取り8割といいますが、プログラム内容はとても大切です。審査項目にも、ズバリこのプログラムの出来ばえが入っています。
鎮守 それは舞台づくりに似ています。劇団では、演出家が全てをまとめます。それに振付家や作曲家他、多くのスタッフが加わり作業をします。
音楽と振り付けは、同時進行で行われます。これは稽古場、いわゆる現場での作業になりますが、毎回試行錯誤を繰り返しています。
一度創り上げたものでも、全体や場面のイメージと合わなければ、またいちから作り直すことも度々です。
例え、初日が開いていても、再演であっても直していきます。
大川 現場でそれぞれの主張を出し合いながら作っていくのですね。
大川 創作で苦労するところはどんなところですか?
鎮守 創作では、筋立て、テーマやメッセージが重要です。それをどうお客様に提示するか。
劇団四季では今年創立55周年を記念して歌と踊りのショーを作ろうと考えています。
四季がてがけてきた作品の楽曲があまりにもたくさんありすぎて、何を軸にして選べば良いか悩んでいます。
大川 55年続いている理由は何だとお考えですか?
鎮守 やはり、たくさんのお客様にご覧いただいているからではないでしょうか。「人生の感動」を伝える、質の高い舞台づくりを常に心がけています。
また、『こどもミュージカル』を45年前から続けており、そこで初めて舞台を見て感動した子供たちが、成長してまた四季の舞台を見に来てくれるようになっていることも大きい要因のひとつではないでしょうか。これは毎年、小学生を無料で招待しております。去年も、いじめ問題を扱った「ユタと不思議な仲間たち」というミュージカルで、北は利尻島から南は石垣島に至るまで、全国の町々の子供達に見てもらっています。
海外作品も質の高いものは主に四季がてがけることが多く、また国産のオリジナル作品でお客様に喜んでいただけるものが出来るようになってきています。
東京の五劇場のほかに、名古屋、京都、大阪、福岡に劇場があり、広島や仙台、静岡でも或る程度長い公演が打てるようになりました。全国で12班が動いているので、それを支えるために、俳優、社員、スタッフ含めて約1300人が劇団で働いています。国内だけでなく、韓国ソウルでも四季の韓国メンバーによる「ライオンキング」は一年間のロングランを記録しました。
東京の「ライオンキング」は十年目に突入しました。日本では演劇を見ることが、特別なことではなくなってきたと思います。
大川 お客の求めるものは変化していますか?
鎮守 基本的には変わっていないと思います。しかし、舞台の機構のスケールは大きくなり、転換のスピードは昔に比べて、とても速くなってきています。
なるべくお客様を、飽きさせないようにという意図でしょう。
そういえば、マーチングでは、転換から何から、全てが観衆の目に晒されて、大変ですね。
大川 ショーを構成しながら、観客の目(視点)がどう動くのか計算しないと、バタバタしているのが見えてしまいます。特にカラーガードの入りはけには神経をつかいます。
鎮守 お客様に感動を与えるという点では、マーチングもミュージカルも同じですね。
大川 はい。つらい練習の中で限界を感じるときには「人に聴いてもらう、見てもらうものを作っているんだよね。」と確認し合いながら進めています。
鎮守 四季の演出家である浅利慶太は「電気会社は便利を、生命保険会社は安心を、劇団四季は生きる喜びを扱っている」とよく言います。
お客様に感動していただく舞台をつくる為には、なによりも日頃の鍛錬と稽古が大切です。
俳優は、基本が大事。四季には演技の基礎となる明快なメソッドがあります。呼吸法、母音法、フレージング法の三つです。四季の俳優はこれを徹底的にやることを常に求められます。それによって、台詞を明確に話すことができ、台本のもつテーマやメッセージを観客に届けることができるのです。
大川 ライオンキングを拝見して、劇団四季のプレーヤーの皆さんが動じない基本を持っていることに感動しました。オープニングで役者さんたちが客席でコーラスをしていたのですが、私の背後のバリトンの方の声が太く丸くそしてとても深い音声で、自分の身体が心地よく共鳴するのを感じました。これが基本に忠実な成果なんですね。このオープニングは素晴らしいハーモニーに包まれた感動に瞬間でした。
鎮守 台詞や歌詞を的確に伝えるためには、感情まみれになったり、下手な小細工はいりません。役者は台本通りに、言葉をはっきり伝えれば良い。
大川 マーチングでも基本がおろそかだと伸びない。本番で気持が盛り上がっても基本が弱いと自己満足になってしまいます。だから直前になってもう一度、基本に長い時間をかけたりまします。
大川 劇団四季のオーケストラピットについても教えて下さい。
鎮守 劇団四季にはオーケストラの専属メンバーはいないので、フリーのミュージシャンを演目ごとに契約しています。皆、様々なジャンルで仕事をしている方々です。ミュージカルには、多くの種類の音楽ジャンルが含まれているので、どんな物にも対応出来る技術と音楽センスが必要です。
大川 ライオンキングの左右のパーカッションは、効果的ですね。奈落ではなく客席の高さにいるので観客が、より音楽にノリやすくなっています。
鎮守 マーチングはブラスとパーカッションの人数が多いので、迫力がありますね。ミュージカルではオーケストラはピットに入っている為、人数に制限があり、PAを通すので、マーチングの音とはまったく異なります。重量感のある生音で勝負できるのは、羨ましくもあります。
大川 作品完成までの期間はどの位ですか?
鎮守 作品にもよりますが、プランは大体1年前くらいから始めますが、実際の稽古は2ヶ月くらいです。
大川 一日の練習量はどの位ですか?
鎮守 作品の稽古は大体朝10:00~夕方18:00までですが、居残りで自分の課題を夜遅くまで練習している人もいます。
そのほかに、毎日午前中にバレエとジャズのダンスクラス、先程お話しした、母音法、呼吸等の基礎訓練も毎日行われています。
大川 これからやりたいことはありますか?
鎮守 やはり日本人の手によるオリジナルのミュージカルを創っていきたいと思います。やがては「ライオンキング」のように何年もロングランできるような作品を創りたい。
大川 最後に若い人へメッセージをお願いします。
鎮守 何事も基本、土台が大事です。
マーチングをやることによって、いろんなことが学べると思います。きっちりとプログラミングされているので、集団の中での規律正しさなど、社会生活にも必要な多くの能力を身に付けることができるのではないでしょうか。
人への感動は、自分たちの努力によって与えられる。それは、プロもアマチュアも同じだと思います。
大川 ありがとうございます。プレーヤー、観客ともにより楽しめるものにマーチングがなっていくよう努力していきます。そのためにも、表現者として精神面、技術ともに基本を大切にということを徹底して伝えていきたいと思います。
劇団四季の益々のご発展をお祈りしております。