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2006 WGI World Championship

華麗なる舞踏と力強い鼓動の祭典

WGIは冬に屋内で行われるカラーガードとパーカッションの大会で、1977年に設立され今年で30周年を迎えます。はじめはカラーガードだけの大会でしたが1993年からパーカッションも加えられました。これまでに参加した演技者は11000人を超え、アメリカ、カナダ、ベルギー、オランダ、ドイツ、イギリス、アイルランド、韓国、そして日本からもエントリーをしています。

そこで繰り広げられるショーは常に新しいものへの挑戦と高い芸術性の追求です。マーチングにおけるカラーガードの存在はWGIによって大きく変わりました。Seattle Imperialsがダンスを導入し始めたのは非常に画期的で、ビジュアルの中でブラスやパーカッションと同じ使い方をされていたカラーガードが輝きを放ち始めます。身体を大きく使い、空間の存在を観衆に感じさせられるのはダンスが使われ始めてからです。ステップを入れる事で移動中の変化が生まれました。
また平面でしか使われる事のなかったフラッグが通る軌道を変える事で多様な見え方が生まれました。
トスの高さや回転が多くなっていくライフル、セイバーの技術もWGIで行われた物がフィールドで展開されるようになりました。更にビジュアルとしてのアイデアも数多く,DCIにも取り入れられ現在のマーチングにおける先端の一翼を担っているのがWGIです。

4月に行われるファイナルの会場は、設立当初2年毎に開催場所を変えていましたが、現在ではほとんど毎年オハイオ州のデイトンで開催されています。(2001年はウイスコンシン州ミルウォーキー、2004年はカリフォルニア州サンディエゴ)2月の初めから毎週末全米各地で地方大会が始まり、4月のファイナル(カラーガードは第2週末、パーカッションは第3週末)までに600以上の大会が行われます。地方大会はWGI、各団体、各地域主催のものがありそれぞれの大会で順位が付けられます。全ての大会における審査はWGI公認の審査員が同一の審査基準をもとに行われます。審査の内容は毎年修正が加えられ、演技者や観客にとってより公平な結果が得られるよう努力されています。審査員は最低4年間地方大会での審査を経験しないとファイナルの審査をすることができません。審査の内容は現在いろいろな団体で創作に携わっているデザイナーや代表が加わって決められます。従って、審査をする側とされる側が共通な認識のもとに大会が行われています。

団体の人数は30人までと決められており、カラーガード、パーカッションそれぞれIndependentとScholasticというカテゴリーに分類されます。Independentは構成されるメンバーに制限はなく、Scholasticは単一の学校で構成された高校生だけの団体です。更に、Independent、Scholasticの中でAクラス,Openクラス,Worldクラスに分かれていて、順に審査基準が高くなっていき団体のスキルに合わせてエントリーするクラスを申請します。WGI公認の大会で団体のスキルにエントリーしたクラスが適当でない場合はクラスを変えなければなりません。パーカッションには動かずに演奏だけするScholastic concert(Independentはありません)もあります。したがってカラーガードは合計6、パーカッションは9クラスに分かれてそれぞれ審査されます。

各団体のオーディションは11月くらいまでにあり詳細はそれぞれのホームページに随時掲載されていきます。年間を通して募集している所もあれば、夏に行われるDCIのファイナルが終わってからの所もありますので、参加を希望するならばその団体のホームページをチェックしておきましょう。オーディションには世界中の人々が集まり、団体によっては練習を行う様な形式で審査されたりもします。今日ではダンス、フラッグ、ウエポン(ライフル、セイバー)を組み合わせてショーを作ります。そして全員がウエポンを使用する場面をほとんどの団体が作っているため、ある程度すべての要素においてスキルが必要です。では全くウエポンができないとメンバーになれないかというとそうではありません。ダンスやフラッグで自分をおおいにアピールすれば合格する事もできます。

団体としてエントリーする場合、WGIのホームページから登録する事ができます。地方大会にはエントリー数が決まっているものもあり、先着で閉め切られますので確認が必要です。ファイナルに関してはどの団体もエントリーができ予選を勝ち抜いていくシステムです。WGI主催の大会で得た得点をもとにファイナルの出演順が決まります。特に海外からのエントリーをWGIは暖かく迎えてくれます。現地での練習会場も紹介してくれ、対応はとてもフレンドリーです。大会では観客の反応も、遠く海を越えてきた仲間として惜しみない声援をかけてくれます。日本からはグロリア、AIMACHI、フュージョンが過去参加していますが、今後もっと多くの人がWGIのフロアーに立つ事を期待されてます。

演技をする広さはちょうどバスケットコートの大きさで、殆どの団体がタープ(フロアーに敷くもの)の上で演技をします。タープの大きさやデザインも様々で、ショーのテーマや音楽に合わせて作られています。材質はビニールで厚さに種類があり、メンバー自身がペイントしたり業者に頼んで製作します。近年ではフラッグ同様に、写真や複雑なデザインもデジタル処理を施す事によりプリントする事が可能になりました。そのデザインを見るだけでもこれから繰り広げられるショーに期待が膨らみます。

ショーの長さはそれぞれのクラスによって違います。Aクラスは5.5分、OPENクラスは6.5分、WORLDクラスは7.5分ですが最低演技をしなければならない時間も決められていて、それぞれ4、5、6(同順)分です。

カラーガードの大会で使用される音は団体毎に提出された音源が再生されます。音楽の種類は様々で、クラシック、ジャズ、民族音楽などを繋ぎ合わせたり、独自にアレンジ、作曲したものや、音楽を使わずに語り声だけで演技をする団体もあります。使われる手具はフラッグ、ライフル、セイバーが中心ですがオリジナルで考えられた手具を使ったり、ショーの最初から最後までセイバーやライフルだけで演技をする団体もあります。中にはペンキをショーの最中に塗ったり、プラスチック板を突き破って出たりするなど斬新なアイデアが繰り広げられます。

パーカッションの大会は殆どの団体がピット(動かずに据え置かれた楽器)と動きながら演奏するバッテリーで構成されています(コンサートクラス以外)。カラーガードの大会と大きく違うのは楽曲が録音された物を使えない事です。ここ何年かは大掛かりなセットをフロアに組んでPA(アンプを使用しての増幅装置)を利用したショーが大部分を占めています。演奏のテクニックも素晴らしいのですが、フィールドでの動きよりもかなり速いテンポ(200を越えるのは当たり前)でのドリルは非常にスリリングで観衆の目を離しません。

カラーガードの審査はEquipment(手具)、Movement(個人の動き)、Ensemble(アンサンブル)、Effect(効果)の4つで行われます。それぞれの審査を別々の審査員が点数をつけます。地方大会ではEffectは二人、それ以外は一人ずつの計5人ですが、ファイナルではそれぞれ倍の10人で行われます。

Equipment
Vocabulary(多様性)とExcellence(秀逸性)に分かれています。それぞれのクラスによって長さは違いますがEquipment Timeというのが設定されていて最低限Equipment を使用しなければならない時間が決められています。

Movement
Vocabulary(多様性)とExcellence(秀逸性)に分かれています。ダンスが中心になりますが移動中やEquipmentを使用している時も常に身体の動きを気にしなければなりません。

Ensemble
Composition(振り付け、ヴィジュアル、音楽)とExcellence(グループにおける秀逸性)に分かれています。デザインされたもの同士の相互関係を見ます。EquipmentやMovementは個人が中心になりますがここではグループとして判断されます。

Effect
Repertoire(レパートリー、プログラム)とPerformance(コミュニケーション)に分かれています。総合的な評価をする部門で、ショー全体を通してメンバーの理解度や観客との疎通が図れていたかなどを審査します。

大会終了後、審査員と団体のデザイナー達との話し合いが行われ、審査に対する説明や質問をする時間が持たれます。各団体は指摘された箇所を修正したり達成度を上げ次の大会を迎えます。多くの団体は大会を経る毎にショーを熟成させる事ができ点数も上がっていきます。

2006 Independent World class

Fantasia
ファンタジア
「Lullaby and Goodnight」

ミケラジェロやロダンの世界から抜け出た様な色彩がフロアで展開されます。絡み合う様なボディワークから間断なく繰り広げられる風景は、音楽とも相まって優雅にそして静かに流れていきます。マットレスを巧みに使いアクロバティックな技が随所に見られます。オールフラッグへの導入は観客から大きなため息に近い歓声があがりました。ライフルやセイバーなどのウエポンは個人が持つ技術の差をステージングやタイミングに変化を持たせる事で旨くカバーされています。大人だからできるショーを見る事ができます。

Pride of Cincinnati
プライド オブ シンシナティ
「Noir」

フランス語で黒を題したショーはモダンで前衛的でした。刺激的でセクシーなダンス、投げた後360°ターンして座りキャッチするライフル、次々と相手を変えながらトスをするセイバーなど非常にテクニックの高い技術が要求される瞬間が続きます。コンセプトを伝えるというよりもテクニックを全面に打ち出したショーです。

Northern Lights
ノーザン ライツ
「A Meditation in Memory of John Lennon」

メンバー全員が男性のチームですが、力強さよりも繊細さを感じるショーです。ジョン レノンのイマジンが流れる中、ユニゾンの密集したダンスから一人だけが立ち上がるシーンは会場から歓声が上がりました。

印象的だったのはCorona’sコロナの「I wish were a Carpenter」で伸縮するメジャーを手具に使った、大工をイメージしたショーでカーペンターズの爽やかな歌声も相まって、メンバーの明るい表情がとても素敵でした。

Music City Mstique
ミュージックシティミスティーク
「Music City Travelling Sideshow is Proud to Present:MYS-TIQUE」

非常に洗練されたテクニックとクリーンなヴィジュアルは、観客に圧倒的な感を与えるのに十分なSHOWでした。高い技術が終始間断なく持続されている中でも、濁らず採譜するのに容易なほど細部まで聞き取る事ができます。右手前方と左手後方に用意されたステージを効果的に使っています。分断されたステージを使う場合焦点がぼやけてしまいがちになりますが、観客の視線を移動させることにより全体の流れを切らずに展開されています。シルク ド ソレイユのステージをイメージし、アクロバティックなシーンを取り入れています。シンバルの右手ストラップを伸縮させヨーヨーのように取り扱った場面は大きな歓声が上がりました。

Rhythm X
リズミックス
「Lunaria」

毎夜、表情を変える月がテーマです。ベートーベンの月光やドビュッシーの月の光を使い全体を通して常に月が表現されています。繊細な音律を奏でる鍵盤は視覚的な効果を必要としない演奏でした。ヴィジュアルの多くは速い展開で構成され、派手な演出はありませんが印象的なドリルが随所に見られ、飽きる事なく引き込まれていきます。

Aimachi
愛町
「Go」

和太鼓、フラッグ、ライフル、バトン、クモの糸など、多くの要素を取り入れて日本的なSHOWが行われました。他の団体と違いバッテリーが前面に出ているというよりも、ブラスを使わないフィールドSHOWという感じです。常にカラーガードが視覚をリードし、色彩豊かでバラエティに富んだヴィジュアルは違う部門の大会かと思えるほど華やかでした。ラストの、テナードラムをスタンドに取り付けて回転させながら演技する場面は多くの観衆が立ち上がって拍手を送りました。

多くの団体がインドア用のバッテリー楽器を使用しています。特にスネアは胴の深さやヘッド面も小さく動きやすい物を使用している団体が殆どです。また、PITにはシンセサイザーやエレキギターなどの電気楽器が多く使われ、今後のDCIを予測させる姿かもしれません。

WGIの素晴らしさは、システムや環境の整備を運営側や参加する団体の熱意によって毎年改善されている所にあります。優秀なデザイナー達と審査員の間で繰り替えし開かれる話し合いは、進歩するコーディネイションと技術の理解度を深めるのに有効で、芸術性を更に進化させる要因になっています。今ではDVDやインターネットなど多くの情報を日本に居ながらにして得られるようになりました。映像からも十分にその素晴らしさは伝わると思います。しかし会場で感じる、演技者と観客の間にある空間を埋める感動は、その時間を共有している者達だけが触れる事のできるものです。フロアで得られる体験は、そこに立つための努力が必要且つ大切だったことを確認するのに十分な、人生の宝物になります。

一人でも多くの人がその芸術に触れる事を期待します。

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